狭心症の話

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更新日:
 2008年6月28日






◎狭心症(1997年10月10日)
 狭心症(angina pectoris)は自覚症状のある病気である。その自覚症状を引き起こしているものの実体は冠状動脈(心臓を栄養している血管)の異変に在る。冠状動脈の異変を来すに至る原因には種々の異なるものがあり、それらの本質については議論のあるところであるが、ここでは狭心症の自覚症状はどのようなものであり、患者として、それにどのように対処してゆくべきかの概略を述べる。

・自覚症状について
 狭心症の自覚症状で特徴的なことは、数分間持続する胸部の異和感が、日をかえて、同じ状況のもとで、くり返し起こるということである。一般に、不安定狭心症や重症狭心症でない限り、その自覚症状の持続時間は15分を超えることはない。胸部の異和感といっても、患者さんによって様々な表現で訴えられる。ある人は前胸部の痛みとして、ある人は胸部の締めつけられるような感じとして、ある人は短時間持続する胸やけとして、ある人はくり返し起こる左肩の痛みとして、又ある人は下顎部に感じる異和感がある一定の動作の後にやってくると訴えられる。息切れや倦怠感が主症状であることもある。寝ている時に限って短時間の胸部重圧感を感じると訴える人もある。要は、短時間持続する異和感がくり返しやってくる。
 例えば、通勤の途中である所まで階段を登ったところで決って胸部に何かを感じるとか、夜寝ているときに限って起るとか、一定の動作の後、又は一定の時刻に、短時間持続する自覚症状であるのが一般的である。胸がチクチクするとか、痛みの部分がはっきりしていて長時間持続しているようなものは心臓神経症であることが多いのであるが、その中に本物の狭心症のあることもあるので馬鹿にはならない。これらの自覚症状が生じるのは、冠状動脈に狭い部分ができていて、心筋に対して、その時に必要なだけの血液が供結されないためである。

・対処の方法について
 以上のような自覚症状があったら、まず、かかりつけのお医者さんの所へ行って、よく話を聴いてもらうことが重要である。話さえ聴けば、医師はそれが狭心症を疑うべきかどうかまずわかるものである。心電図を見るより話を聴く方がよくわかる。職場の検診で異常なしと言われていることなど何の役にも立たない。狭心症は安静時の心電図では異常のないことが多いからである。かかりつけ医はその患者さんが狭心症の危険因子を持っているかどうか常日頃よくわかっているから都合がいい。ちなみに、狭心症の危険因子には肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症、タバコ、大酒、過剰ストレス等がある。狭心症が疑わしいと判断した場合、そのかかりつけ医師は、紹介状を書いて、循環器専門医のいる病院へ送るのが通例である。かかりつけ医はよく勉強会に出席したり日常の医師同志の交際を通じて、現在のその地方における医療技術のレベルを知っており、どういう場合には誰に頼むべきかをよく知っているものである。単なる看板とか評判しか知らない素人と、かかりつけ医とはこの点で決定的に異なる情報網を持っている。患者としては、どういう場合、何を目的に専門病院へ送られるのかも知っておいた方がよい。それは次のようなことである。

1. 急性症状で治療を急がねばならないと判断された場合
2. 狭心症ではあるが、その重症度を知り今後の治療方針の参考データが欲しいと判断された場合
3. 狭心症は疑わしいけれども診断をはっきり決めかねると判断された場合

 送られた専門病院では何をしてもらうかというと、

  1.トレッドミル運動負荷試験
  2.冠状動脈造影
  3.核医学的検査
  4.超音波エコーによる検査
  5.その他の検査

 以上のことを必要に応じて検査してもらい、病型と重症度、年令やリスクファクター、合併症の状態を考慮して、治療方針を立ててもらい、その御意見を紹介したかかりつけ医に返書してもらうのである。その返書を基にして患者さんはかかりつけ医と今後の方針を相談して決め実行することになる。狭心症患者としては、現代医術の提供し得る治療手段の概略も識っておくのがよい。それは大きく分けて3つある。
  1.内科的薬物療法
  2.経皮的冠状動脈形成術(PTCA)
  3.冠状動脈バイパス手術(CABG)

 内科的薬物療法の主体はニトロの名でよく知られている硝酸剤の使用が主体になるが、これにも色々の剤形がある。舌下錠、徐倣剤、貼布剤、軟膏から注射液まで色々ある。また何でも食後に飲んでいればよいというものではなく、発作の時間帯を狙い打ちするようか工夫も必要となる。その人の体質や知性の程度、生活形態、長期的見通しや合併症の程度とのかね合い等々きめ細かな配慮を必要とするので、これは、地理的交通関係や人間関係等も配慮して、かかりつけ医の所で行われるのが通例である。
 経皮的冠状動脈形成術は専門病院へ数日間入院して施行されることになる。短期間で狭心症状を消失させ運動耐容能を改善させるためにはよい方法ではあるが、6ケ月以内の再発率は約40%とされているのが難点である。
 冠状動脈バイパス手術には、やや長期の入院が必要なのと術中の死亡も含めての事故が5%位あることを覚悟せねばならないのが難点であるが、病型によってはこの治療法しかないものも在る。どの治療法を選ぶかは、その人その人で異なるから、医師と患者とでよく相談して決めるべきである。
 狭心症の症状は心臓の発する危険警報システムの作動している状態であるから、その警報を素直に受けとめて、冷静に事態に対応すれば事足りるのであるが、同程度の心筋虚血が在りながら、それを伝える警報システムに欠陥があり作動しない人もあることが知られている。そのような人は警報を受けないままに心筋梗塞や突然心臓死の結着を見ることとなる。前述した狭心症の危険因子を持つ人は症状の有無にかかわらず、運動負荷心電図検査を受けておくのがよいと考えられる。


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