過敏性腸症候群のお話

  メニュー

 TOPページ 

 日本情報 

 海外事情 

 辞典 

 医学の話 

 科学の話 

 食品の話 

 知識の宝箱 

 メモ帳 

  



更新日:
 2008年6月28日





◎過敏性腸症候群(1996年2月5日)
 原因不明の下痢。下痢は朝がひどい。排便後も残便感があり、すっきりしない。
 治療法は、薬物療法と心身療法がある。薬は内科的な薬を用いる。腸管運動抑制剤(トランコロン、ブスコバン、コリオパン)、消化管運動調整剤(セレキノン)、整腸剤(ビオフェルミン)など。また抗不安薬(セレナール、デパス、ホリゾン)、自律神経調整剤(ベレルガル、グランダキシン)など。しかし、薬だけでの完治は難しく、実際にはこれらの薬で下痢や便秘を緩和しておき、心身療法を併用する。
 心身療法は、体に現れた症状の原因となる心理的、精神的な問題から解決していく療法。しかし、ストレスを根絶するのは不可能なため、この病気の完治は難しい。  慢性的に下痢、もしくは下痢と便秘を交互に繰り返す大腸疾患。しかも腹痛、頭痛、吐き気、不安、イライラなどを伴うのが特徴。
 大腸には二種類の筋肉があり、それぞれ便の通過を促進する働きと、抑制する働きをしているが、このバランスが崩れると、下痢や便秘が起きる。このバランスは、精神的な影響で崩れやすく、過敏性腸症候群もストレスによって起こるとされている。検査をしても血液や尿には異常が無く、腸管のX線注腸検査、大腸内視鏡検査、超音波検査でも問題がない。この病気は生命に関わるものではないが、社会生活には大きな影響を及ぼしかねない。

◎過敏性腸症候群(1997年10月10日)
 食生活の欧米化に伴って日本人にも大腸がんが増えている。消化器が専門の医師の関心も、従来の胃から大腸に焦点をシフトした。これを「大腸ブーム」と呼ぶ医師もいる。
 東京都豊島区の平塚胃腸病院は、こうした大腸ブームを先取りする形で1972年に「便通異常外来」を開設した。慢性の便秘や下痢といった便通の不調を訴える患者の診察を通じ、大腸がんの早期発見と治療を目指していた。

◇はずれた当初の狙い
 ところが、「当初の狙いは完全にはずれました」と平塚秀雄・同病院長は言う。「便こそ腸の異常の貴重な情報」と意気込んで開いた便通異常外来は、ストレスが原因の「過敏性腸症候群」(IBS)の患者で占められてしまったのだ。IBSは、腸の活動を制御している自律神経が不安定になって起きるおなかの不調だ。たびたびトイレに行きたくなるほか、便秘と下痢の繰り返しや、腹痛、頻繁なおならといった症状として現れる。かつて神経性下痢といわれた症例も、現在は下痢型のIBSに分類されている。
 自律神経の乱れの元になるのは、精神的ストレスが大きく、ほかには不規則な食生活や排便習慣、下剤の乱用、過労なども誘因となることがある。IBSは仕事に追われるビジネスマンに多く見られ、通勤途中、駅ごとに下りてトイレに駆け込むことから「各駅停車症候群」の別名もある。
 平塚院長が診察した都内に住む30歳代の会社員は、目覚めるとまずトイレに。さらに朝食後と、いよいよ出勤という時も加えて、家を出るまでで最低3回はトイレに入っていた。通勤電車に乗ってからがまた大変で、停車のたびに下りて便所に。毎日こんなことを繰り返すうち、いつも使う駅の便所で知り合った同じ症状に苦しむ「トイレ仲間」から、同病院の便通異常外来を教えてもらったという。
 会社員は本当に胃腸などに病気がないかを調べる「除外診断」を受けた。その結果、異常はなく、ストレスが排便不調を引き起こしている可能性が高いと診断された。カウンセリングなど心療内科的な治療を受け、回復している。原因となるストレスには、仕事上の心配事だけでなく、受験や夫婦関係の悪化、近親者の死別といった出来事もある。患者の年齢層も若者から高齢者まで幅広い。
 「腸は心の窓と言われている。断腸の思い、はらわたが煮えくり返る、といった言い回しは、その点をよく表している」と、横浜労災病院心療内科の山本晴義部長。「ストレスが症状となって現れるのは、その人の弱い部分。人によっては肩こりや動悸(どうき)にもなるが、腸は感情に反応しやすい臓器なので、IBSの患者も多いのでは」と見ている。
 検査で得られるデータだけでは原因は分からず、手の打ちようもない。そのため病院をいくつも訪ね歩く「ドクターショッピング」をしてしまう患者も少なくない。そんな患者でも、原因はストレスで、その源は何かということに気づかせるだけで、治癒に向かうことがある。

◇大切な生活のゆとり
 「まずストレスを生み出しているライフスタイルを改善し、生活にゆとりを持つことが大切」と山本部長はアドバイス。その際、症状を緩和させるために精神安定剤や整腸剤を用いることもある。また山本部長らのグループは、絶食療法も取り入れて効果を上げている。「東北大学方式」と呼ばれる方法で、心身両面の検査の後、10日間の絶食期と重湯から元の食事に戻す5日間の復食期がプログラムされている。絶食期でも必要な水分はとり、ビタミンやアミノ酸の点滴を受ける。
 絶食、復食期は個室に入って面会謝絶。電話やテレビも禁止で、ひたすら自己洞察を深める。山本部長は「医師の十分な診察と管理を受けながら行うので安全。胃かいようや大腸がんなどの患者には適応できないが、ほかの治療法で行き詰まった場合でも効果がある」と説明している。


inserted by FC2 system