水素吸蔵合金のお話

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更新日:
 2009年1月28日







◎水素吸蔵合金(1997年11月10日)
 化石燃料に替わる次世代エネルギーとして水素が注目されている。水素は爆発性が高く、輸送、貯蔵に難点があったが、これを解決する決め手として水素吸蔵合金が注目されている。
 水素吸蔵合金は1968年にオンランダのフィリップス社で開発された。水素貯蔵合金(metal hydride, hydrogen storage alloy)、あるいはメタルハイドライド(Metal Hydrid)とも言う。
水素吸蔵合金は、水素と反応して金属水素化物となる合金で、水素ガス中でガス圧力を上げるか温度を下げると水素を吸蔵して発熱し、ガス圧を下げるか温度を上げると水素を放出して吸熱する性質がある。このように、水素吸蔵合金は、水素化、脱水素化の反応が実用的な条件下で好ましい反応速度で進行するというように、優れた可逆性を有する合金である。
 水素吸蔵合金は、Mg−Ni系、La−Ni系、Ti−Mn系などの種類がある。また、コスト低減を狙って、レアメタルの混合体であるミッシュメタルやランタンを多く含むランタンリッチ・ミッシュメタルを利用した合金も開発されている。
 水素吸蔵合金は、開発時期に比べ実用化のタイミングが遅れていたが、二次電池への用途などが広がり、その前途が注目されている。水素吸蔵合金の用途としては、二次電池の他、ヒートポンプ、太陽・風力などの自然エネルギーの貯蔵、水素貯蔵、アクチュエータなどが考えられている。
 現在、実用化が進んでいるのが二次電池用である。この電池には水素吸蔵合金が電極(負極)として用いられているが、充電時は水の電気分解で発生した水素が金属に蓄えられ、放電時(使用時)は金属から水素がイオンとして放出され同時に電極から電子が流れ出る。また、水素吸蔵合金を水素タンクとして用いれば低い圧力で水素を大量に貯蔵できる。ボンベ方式では、150気圧もの高圧にしなければならないので、水素吸蔵合金は安全面で優れているといえる。
 Ni−MH電池(ニッケル水素電池)は、Ni-Cd電池や鉛電池と比較して、CdやPbと言った有害物質を含まず、しかも高密度エネルギーで、家庭用電池では次々と商品化が進められている。同電池1個当りに使われる水素吸蔵合金は8〜10g。約5億個生産されているNi−Cd電池の1割を代替すれば、同合金の需要は約500トンに急増する。
 また、水素の精製用としても実用化している。水素吸蔵合金に吸蔵させて放出した水素の純度は非常に高いため、この繰り返しによって数十ppb級の高純度水素が得られる。
 さらに、水素が金属に出入りするときの熱を利用して冷暖房を行なうことができる。環境汚染で問題となるフロンを用いないところに大きな特徴がある。ヒートポンプは、住宅向け冷暖房システム、工場のコージェネレーションシステム、冷凍システム等への応用、またアクチュエータは福祉機器等への応用が期待されているが、実用化はこれからである。
 水素吸蔵合金では、水素吸蔵性能の向上に向け、新材料開発が進められている。トヨタ自動車は96年に、従来の水素吸蔵合金の約2倍という世界最高の水素貯蔵量を実現した、高性能合金(BCC:体心立方構造)を開発した。トヨタ自動車は、将来の自動車用水素燃料電池への応用(水素貯蔵用)を目指している。
 水素吸蔵合金の魅力は、コンパクトなシステムで水素を吸収・放出し、その際に温熱や冷熱、あるいは機械エネルギーを自在に取り出せる点にある。水素吸蔵合金のヒートポンプへの応用例としては、古くは、材料研究所(北海道・室蘭市)や科学技術庁が実施した、秋田県大滝村にある県立農業短大内の風力-金属水素化サイクル利用による熱貯蔵温室システムがある。最近では、97年に、最高−30度の冷熱を得られるヒートポンプを開発した。日本製鋼所は冷凍システム向けに、水素吸蔵合金を使ったヒートポンプの開発を進めている。
 水素吸蔵合金を使ったヒートポンプは、熱エネルギーを「高圧の水素ガス」として輸送できる。この機能を利用して、廃熱を有効利用するための熱輸送システムを構築する試みが始まっている。通産省工業技術院のニューサンシャイン計画の一環として、NEDOが省エネルギーセンターに委託して93年から研究開発を開始した「エコエネ都市プロジェクト」で、熱源となる向上の廃熱を水素吸蔵合金で高圧の水素ガスに変換し、パイプラインで需要地となる都市部に輸送する。
 その他では、三洋電機は96年に、代替フロンの代わりに水素吸蔵合金を採用し、太陽熱で動く冷凍装置を開発した。三洋電機は、地球環境保全の観点から太陽熱利用冷凍冷蔵システムの開発を進めており、水素吸蔵合金の利用はフロン全廃を目指したものでもある。
 アクチュエータへの応用では、北海道大学電子科学研究所の伊福部達教授らの研究グループと日本製鋼所は97年、水素吸蔵合金をアクチュエータ使った介護用機器(下肢機能が衰えた非介助者が車椅子やベッドから立ち上がる動作を助けて移乗させる装置)を開発した。
 水素吸蔵合金の大手である日本重化学工業は、同合金の需要増大に対処するため、年産4500トンの生産設備を有している。低コスト化による一層の需要増をにらみ、三井金属、住友金属鉱山、大同特殊鋼など希土類を取り扱う金属メーカーもこの分野へ参入している。
 参入企業は、日本重化学工業、三井金属、住友金属鉱山、大同特殊鋼、日本製鋼所、三洋電機、トヨタ自動車など。

参考資料
 「水素吸蔵合金」加藤剛士著 冬樹社
 「水素エネルギー読本」水素エネルギーシステム研究会編 オーム社
 「水素吸蔵合金」アクネ社


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