非鉄金属のお話

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更新日:
 2008年6月28日








非鉄金属(nonferrous metals)
 非鉄金属とは、英語のノンフェラス=メタルスの直訳で、広義には鉄以外のすべての金属を含むが、狭い意味ではアルミニウム・銅・亜鉛など量産金属に対して用いられることが多い。
 人類の歴史の上からみると、石器時代につづく青銅器時代は加工しやすい天然産の銅−錫合金、つまり青銅を生活の道具として使いはじめた時代であった。その後、美しい上にさびない金・銀などの貴金属が王侯貴族の権威の象徴として、あるいは国家や個人の富の尺度としての貨幣や装飾として使われるようになる。
 多種類にわたる非鉄金属は、純金属はもちろん、無限に近い合金の組み合わせからきわめて多様な性質を示し、これを利用する機能材料としての用途が最近大きく進展しつつある。このように純金属、つまり元素としての金属だけでも数十種もある非鉄金属であるが、その原子構造と性質のあいだには周期的な変化があり、これに従って性質の相似した金属に分類することができる。
 中国語では非鉄金属を有色金属と呼ぶが、元素金属で銀白色のいわゆる金属色以外の色を呈するのは、金と銅の2種類だけである。このように多種類の金属は銅の電線のように純金属で使用する場合もあるが、多くの場合はある種の合金として使われ、半導体など特殊な場合には金属間化合物の形で用いることもある。さらに、非金属元素との化合物としてもさまざまな用途に用いられる。

その他の非鉄金属
 最初に述べたように非鉄金属には多くの種類があり、その性質もきわめてバラエティに富んでいるが、上に述べた以外のいくつかについて簡単に触れる。
 元素としての存在量も多く、工業材料として優れた性質をもつ金属にチタニウム(チタン)がある。チタニウムは、アルミニウムの軽さと鉄の強さを併せもち、かつ耐蝕性に富む未来の金属といわれながら、未だに航空機や化学装置などごく限られた用途にしか用いられていない。これは、製錬コストが高くて加工が難しく、その上、歩どまりが悪いのが原因である。
 チタニウムの鉱石は、酸化鉱であるルチル鉱や鉄を含んだイルメナイト鉱で、砂鉄を製錬するときにできる高チタンスラグも原料となる。これらを塩素ガス中で加熱して四塩化チタンとし、溶融マグネシウム上に滴下してスポンジチタンをつくる。これをアーク溶解してチタンインゴットとする。副生する塩化マグネシウムからマグネシウムと塩素ガスを再生するために、アルミニウム製錬以上の電力を消費するほか、コストの高い工程が多いので製錬費は高くなる。したがって、地金価格も高価にならざるをえない。
 高融点材料として用いられる金属は、タングステン・モリブデン・ニオブ・タンタルなどで、最も身近には、タングステン製の白熱電球のフィラメントがある。これらの諸金属は、いずれも酸素と結合しやすい活性金属であり、空気中で高温で使うことはできない。電球内部を真空にしたり、ガスを封入したりするのは酸化を防ぐためであり、真空管も同じ理由から真空にして使うのである。
 これらの金属は、クロムやニッケルとともに特殊鋼の合金元素としても使われる。18%クロム・8%ニッケルを加えた特殊鋼は、いわゆる18-8ステンレス鋼として広い用途をもつ不銹鋼の代表的な存在であることはよく知られている。クロム・ニッケルは、さびの防止のためメッキ用にも常用される。
 一方、低融点の金属には、前述した鉛をはじめビスマス・タリウム・錫・インジウムなどがあり、低融点の合金の素材となることはすでに述べたが、さらに融点の低い金属としてはI A族のアルカリ金属やガリウム(セ氏29.8度)・水銀(セ氏−38.4度)がある。ガリウムはインジウムとともに最近、電子材料としてクローズアップされた金属であるが、掌の上で融ける珍しい金属である。
 水銀は常温で液体なので、温度計などでおなじみの金属であるが、表面張力が大きくコロコロと転がってしまうことはよく知られている。蒸気圧も高く(沸点セ氏357度)、少しあたためただけで気化し、その蒸気は有毒なので注意が必要である。
 水銀は古くから日本に産し、その原鉱である硫化水銀は、防腐と装飾をかねて建造物の塗装用に用いられた。奈良の都の枕詞“青丹よし”の丹は朱と同義で、いずれも硫化水銀である。硫化水銀は現在でも印肉として日常使われている。大和地方をはじめ各地にみられる古い丹生の地名は、かつての丹の産地である。奈良東大寺の大仏のメッキに水銀を用いたことは前述したが、硫化水銀を加熱すると簡単に分解して水銀蒸気となるので、これを冷却すれば金属水銀が得られる。
 水銀は、貴金属をはじめ種々の金属と合金をつくり、いわゆるアマルガムとなる。アマルガムは粉状で、加熱すると容易に固化するので、歯科の充填用に使われる。水銀灯は、水銀蒸気の放電を利用したものである。
 ウラニウムが原子炉燃料として、発電用に用いられることはよく知られている。天然ウラニウム中には、熱中性子によって核分裂をおこすウラン235は0.7%しか入っていないので、この濃度を上げた濃縮ウランが燃料用に使われる。
 ゲルマニウムは、ダイオードやトランジスタの素材としてエレクトロニクス革命の口火となった半導体性をもつ元素であるが、まもなくシリコンが主流を占めるようになった。
 セレンも同じような性質をもつ元素で、いずれも非鉄硫化鉱に微量含有されており、非鉄製錬工程から回収される。セレンは、以前には整流器として用いられたが、最近は複写機の感光体としての用途が多い。
 希土類元素は17元素あるが、性質が似ているため相互分離が難しい。そこで、鉱石中の希土類金属を一括して還元し、合金状態で使用することも多く、これをミッシュメタルという。ミッシュメタルは合金用に使われるほか、摩擦により容易に発火するので、ライターの発火石に用いられる。希土類元素は、カラーブラウン管の赤の感光体として使われる。また、サマリウム−コバルト合金は、強力永久磁石として知られている。

強度材料としての非鉄金属
 前項までは金属別に非鉄金属をみてきたが、以下では用途から見ていくこととし、まず金属の強さを主として利用する構造体材料の面からみてみよう。
 一般的にいえば、非鉄金属およびその合金は、強度という点からみると鉄鋼材料には及ばない。近代の大規模な構造体は、安価で強い鉄鋼が主要材料として大量に使えるようになってから誕生したといえる。しかし、加工のしやすさや耐蝕性・美観・軽さなどの点から、特殊な用途、あるいは小型の構造材料としては、日用品をはじめよく使用される。以前は、銅や銅合金(青銅・真鍮など)でつくられた日用品が多かったが、現代ではより軽く、より強いアルミニウム、鉄がこれにとって代わった。しかし機能性や美しさ、耐久性などの点から、再び銅製品のよさが見直されている。
 一方、大型ジェット機や軍用機の構造材のように、強度と軽さの兼ね合いの極限を追求する用途については、チタン合金やマグネシウム合金などが実用されている。それほどではなくても、アルミホイールなどの自動車部品、カメラ・サッシなどの建材、家庭電気用品・事務機器などの構造体としてアルミニウム材が使われ、光学機器のように高い精度を要する部分にもダイキャスト製品が使われて軽量化がはかられるようになった。
 ダイキャスト、すなわち圧力金型鋳造は寸法精度が高いこと、複雑な形状を1工程で材料の無駄なく容易につくれること、同じ形状の製品を短時間に大量につくれることなど多くの特徴をもつため、アルミニウム・亜鉛合金に多用される。建物の窓枠をアルミニウム材でつくる建築用アルミサッシは、加熱したアルミニウム片を特殊鋼製ノズルから高い圧力をかけて押し出して、複雑な断面形状をもつ長尺部材を1工程でつくる押出し加工と、防蝕表面処理技術の進歩により急速に普及し、日本家屋の構造と日本人の生活様式に大きい影響を与えた。
 より速く、より経済的に移動することを求める交通機関には、より強力なエンジンと、より軽い機体、車体が必要である。航空機はもちろん、自動車も列車も、まず軽量化への努力が払われ、さらに鉄鋼材料の独壇場であったエンジンにも、マグネシウムエンジンなど軽量化の試みがされるようになってきた。わが国が世界に誇る新幹線の鉄道を支えている材料のうち、アルミニウム合金製の軽くて強い車体、銅合金製のパンタグラフと、架線の耐磨耗性は極めて重要な役割を果たしている。

機能材料としての非鉄金属
 多種多様な非鉄金属材料であるから、一般的には、強さよりは、それぞれ特徴のある機能や特性を利用する用途の方が主流となることは容易に推察される。一口に機能と特性といってもさまざまなものがあり、大別すると、[1]化学的な特性、[2]電気的な機能、[3]機械的性質、などに分けることができる。
 化学的な特性を利用する例としては、非鉄金属あるいは合金自身のさびにくさ・耐蝕性・メッキによる防蝕性と美化などがあるが、どちらかといえばこれらは非鉄金属本来の性質によるところが多い。電池の電極として使われるのも化学的な特性の利用で、鉛蓄電池をはじめ、最もふつうの亜鉛−二酸化マンガン乾電池や、ニッケルカドミウム電池・酸化銀電池・水銀電池など、その種類は多く、特性に応じていろいろなところに使われる。
 2番目の電気的機能を利用する用途は、たとえば導電材料・半導体・超電導材料・磁性材料・抵抗線・熱電対など多彩をきわめる。導電材料としては、貴金属I B族の銅・銀・金が、その電導性のよさと耐蝕性にもとづく信頼性の高さから、最もよく用いられる。銅線はいうまでもないが、スイッチやリレーなど動く部分に使われる金・銀・白金の接点、金線のICリード線などは、その例である。
 アルミニウムが、その軽さを利して、この分野に進出しつつあることは前にも述べた。半導体には多様な材料があるが、交流から直流を得る整流器としては、まず亜酸化銅・セレン、ついでゲルマニウム・シリコンと変遷を遂げてきた。半導体を支えるのは、基礎理論の発展ももちろんであるが、超高純度材料への精製技術と、さらにそれを大きい単結晶とし、薄いウエハに加工する技術などの組み合わせによるところが大きい。
 電子計算機をはじめ、あらゆる電子応用機器に使用され、その小型化つまり軽薄短小化に大きな役割を果たしつつあるICやLSIなどは、結晶成長や真空蒸着など、そのものの製造技術のほか、微細な回路の印刷とか、髪の毛より細いリードワイヤのロボットによるハンダづけといった技術の助けが加わらねばならない。この種の半導体としては、従来、シリコンが主力であったが、将来は化合物半導体が伸びるとみられ、ガリウム砒素やインジウムリンなどの化合物半導体が実用化にむけて開発されつつある。
 光を電流に変える光電素子や太陽電池も半導体の特性を利用するもので、カメラの露光計にはセレンや硫化カドミウムの光電池が使われるが、携帯用電卓・腕時計、あるいは大きいものでは人工衛星などには、シリコン太陽電池がふつうに用いられる。
 金属は、導電材でも電気抵抗をもち、電流を流せば電力を消費する。金属の性質として、理論的には絶対零度(セ氏−273.16度)まで冷却すれば電気抵抗はゼロになるはずであるが、一方、ここまで冷却することは、どんな手段を使っても不可能である。ところが、絶対零度よりも高い温度でも、電気抵抗がゼロとなる現象があることが発見された。これを超電導と呼ぶ。
 超電導現象は多くの元素が示すが、工業的にこれを利用するには、なるべく高い温度までこの状態に保たれる材料を用いるのが有利である。超電導材料を使った電磁石に、一度に大電流を流せば電力を消費しないから、大きな永久磁石とすることができる。これを車体に乗せて反発力で浮上させ、さらにリニアモーターの原理で推進しようというのが、新しい浮上式高速鉄道の構想である。車輪のような機械的摩擦がないので、騒音なしに高速が得られ、乗心地もよく、地上を走る飛行機として、将来の交通機関への期待を集めている。
 また、大容量のマグネットは、種々の工業技術への応用の可能性をもっている。工業用超電導材料の開発は急速に進みつつあるが、ニオブ−錫やニオブ−チタン合金などが優れた性質を示している一方、永久磁石材料としても最近の進歩はめざましいものがある。
 本多光太郎がコバルト−クロム−タングステン−鉄系のKS鋼を発明したのは1917年であるが、その後、次々と強力な磁石材料が開発された。すなわち、アルミニウム・ニッケル・コバルトを含む鋼のアルニコ磁石・白金−コバルト磁石・バリウムフェライト磁石・サマリウムコバルト磁石などで、最近開発されたセリウム−ジジミウム磁石は、吸着力がKS鋼の40倍にも及んでいる。磁性材科としては、ほかに電磁石のコアをつくる磁心材料や、各種の磁気ヘッド用材料などがあり、エレクトロニクス利用機器の重要な部品として使われている。
 磁性合金の一種で、磁気変態を利用して膨張収縮のおこらない材料とか、弾性定数の変わらない材料とかが見出された。前者をインバー型合金、後者をエリンバー型合金という。ニッケル36%鉄合金をインバーと呼び、標準尺や時計の振子などに用いる。これにクロム12%が加えられた合金がエリンバー、ニッケルの代わりにコバルトを加えた合金がコエリンバーで、いずれも弾性率の温度係数が非常に小さいので、ヒゲぜんまいや標準音、また、地震計のばねなどに用いられる。インバーとエリンバーの両者を組み合わせて狂わない時計がつくられた。
 電気抵抗の大きい合金は、抵抗体や電熱線として用いられる。通称、ニクロム線というニッケル−クロム合金や、鉄−クロム−アルミニウム合金のカンタル線などがよく知られている。
 最後に、機械的性質を利用する用途としては、強度材料として使う場合を除くと、膨張率の異なる2種類の材料を貼り合わせたバイメタルが、温度調節装置に使われている例がある。また、最近開発された材料に形状記憶合金と呼ばれるものがある。たとえば、ニッケル−チタニウム合金でつくった針金をある形のまま高温にすると、冷却してから常温でいくらひどく変形させても、前の温度に戻すだけで、もつれていない限り、前の形を憶えていたように瞬時に元の形に戻る。この機能は何回でも繰り返して現れるので、これを使って温排水から動力や電力を取り出すエンジンや、温度に応じて窓を開閉する調温装置などの応用が考えられている。


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