放射線のお話

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更新日:
 2008年6月28日







◎放射線(1996年1月19日)
 放射線とは、主に原子の原子核から放射される粒子、または強い電磁波であり、例えば、原子を構成している陽子、中性子、電子などが放出されるものです。
 原子が放射線を出す性質を放射能といい、放射線を出す元素は放射性元素と言われます。放射性元素には、天然の元素と人工の元素がある。天然の主な元素はラジウム、ウランなどの重い元素がありますが、一部には、カリウムの同位元素のカリウム40や、炭素の同位元素の炭素14など、軽い元素もあります。
 放射性元素から放出される放射線には、アルファ線(陽子2個と中性子2個からなるヘリウムの原子核)、ベータ線(原子核の陽子が1つ中性子に変わる際に放出される電子)、ガンマ線(強い電磁波)の3つがあります。アルファ線、ベータ線が放出されると、原子番号と質量数、あるいは原子番号が変化するため、原子が他の原子に変化します。これは、原子核の崩壊と呼ばれています。
 α線:α粒子(42He2+)
 β線:β粒子(電子)
 γ線:X線より波長の短い電磁波
 ・α線が1回照射されると、原子番号が2減り、質量数が4減ります。
 ・β線が1回照射されると、原子番号が1増えます。

・アルファ線
 2個の陽子、および2個の中性子(すなわち、ヘリウム原子核)から成る粒子線であるアルファ線は、ラジウム、プルトニウム、ウラニウム、ラドンなどの特定の放射性原子の自然崩壊によって発生します。アルファ線は質量が大きく、正電荷を帯びているため、水中では通常短い距離(1mm未満)しか進めません。紙1枚でもアルファ線を容易に止めることができます。従って、アルファ線被ばくにより健康影響が現れるのは、アルファ線を放出する物質が体内に摂取された時(体内被ばく)のみです。

・ベータ線
 陽子や中性子の質量の約1/2000の質量を持つ高速度の電子から成る粒子線です。ベータ線は、トリチウム(水素の同位体)、炭素14、燐32、ストロンチウム90などの特定の放射性物質の自然崩壊によって発生します。ベータ線は、そのエネルギー(すなわち速度)に応じて水中での透過距離は異なり、トリチウムの場合は1mm未満、燐32では約1cmです。アルファ線と同様、主な健康影響が生じるのは体内に取り込まれた場合です。

・ガンマ線
 電磁波であるガンマ線は、通常の可視光線と似ていますが、エネルギーや波長が異なります。太陽光線は、種々の波長の電磁線の混合したものであり、その中には最も波長の長い赤外線から、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の電磁線、そして最も波長の短い紫外線が含まれます。ガンマ線の波長は、紫外線よりはるかに短い(すなわちはるかにエネルギーが高い)のです。ガンマ線は、コバルト60やセシウム137などの放射性物質の自然崩壊により発生します。コバルト60のガンマ線は、人体の深部まで透過できるので癌の放射線治療に広く使用されてきました。

・X線
 X線はガンマ線と同じ特徴を持っていますが、発生の仕方が異なります。高速の電子が金属にぶつかって停止すると、電磁波の形でエネルギーが発生します。この現象はレントゲン博士によって1895年に初めて発見されました。レントゲン博士は、この不思議な放射線をX線と命名しました。X線は、異なるエネルギー(波長)の混合したものですが、ガンマ線は、放射性物質に特有な固定値(一つまたは二つ)を持つ点で異なります。

・中性子
 中性子粒子は、ウラニウムやプルトニウムなどの核分裂により発生します。実際、原子爆弾の爆発に至る原子核の連鎖反応を引き起こすのは中性子です。中性子自身は電荷を帯びていないので、細胞に損傷を与えることはほとんどありません。しかし、人体は大量の水素(人体の70%を占める水分子の構成物質)を含んでいます。中性子が水素の原子核、すなわち正の電荷を帯びた陽子にぶつかると、陽子ははじきとばされて体内で電離を引き起こし、種々の障害を誘発します。吸収された線量が同じであれば、ガンマ線よりも中性子の方が人体に重度の障害を引き起こします。

◎放射線の人体への影響(1996年1月19日)
 人体が放射線にさらされる放射線被曝には、体外被曝と体内被曝がある。体外被曝ではアルファ線は皮膚の表面で止まるので障害にはならないが、ベータ線とガンマ線は障害を与える。体内被曝は体内に取り込まれた放射性元素からの放射線が障害を与えるもので、この場合はアルファ線が最も大きな障害を与える。
 生物の細胞は分子や原子からできているが、放射線は原子核の構成粒子のヘリウムの原子核や電子であり、原子と原子の結びつきを切ったりするので、細胞を傷つける。被曝した放射線の線量により細胞は死ぬこともあれば、傷ついてガンを発生することもあり、生殖細胞が傷つくと遺伝的障害を招くこともある。

◎放射線の単位(1996年1月19日)
 生物が放射線を受けたときの影響の程度を示す量の単位にシーベルトまたはレムがある。1シーベルトは100レム。自然界には至る所に微量の放射性元素があるので、生活しているだけで放射線を受けている。人間が自然から受ける放射線は平均して年間100〜200ミリレムである。レントゲン検査を受けるときの放射線の量は50〜100ミリレムである。1000レム以上の被曝では急性死、500レム以上では約半数の人間が短期間に死ぬ。200レムでは全身症状が現れ、25レム以下では以上は見られないが晩発性障害が生じる可能性がある。
 放射能の強さを示す単位にベクレルまたはキュリーがある。1ベクレルは1秒間に1個の原子核が崩壊するときの放射能の強さをいい、1キュリーは370億ベクレル。

Q. 放射線とは?
A. 光や高速で飛ぶ粒子のようなもの。しかし、多くは人の体や金属でも通り抜ける。

 放射線は目に見えない光、あるいは、とても早く進むごく小さな粒と考えればよい。物質を構成する基本要素、原子の中心にある原子核から飛び出してくる。
 原子核にはそれ自体が安定したものと、不安定でひとりでに別のものに変わろうとするものがある。不安定なものが、別の原子核に変わる途中で、粒子や光のようなものを放出する。これが放射線。
 放射線を出す物質が放射性物質。放射性物質のことを放射能とも呼ぶが、これは放射線を出す能力を持つ物質の意味。電球を放射性物質、電球からの光を放射線と考えると分かりやすい。
 放射線にはα線、β線、γ線、中性子線、X線などの種類がある。いずれもぶつかったとき、その物質や周辺の物質の性質を変える力を持つが、透過力は様々。ヘリウムの原子核であるα線は空気中でも数cmしか飛ばず、紙1枚で止めることができる。β線も体の中では2cmも進まず、金属板で止めることができる。
 一方、γ線は、厚さ20〜30cmのコンクリート壁でもかなり透過する。中性子はほとんど弱まらずに通る。もちろん、体も通過する。γ線の正体は電磁波で、光のような性質を持っている。
 中性子線の正体は、陽子とともに原子核を構成している中性子の束。ウランの核分裂を利用する原爆の爆発や、運転中の原子力発電所の炉内では大量に発生する。
 自然界にもカリウム40、ウラン、トリウムなどの放射性物質があり、土壌中や野菜など食物にも一定量含まれている。宇宙から降ってくる宇宙線も加えると、私たちは生活の中で、環境から年間2ミリシーベルトほど浴びている。これは、体に影響を与えるような量ではない。
 シーベルトは組織に吸収される放射線の量を示す単位で、その影響を知る尺度。1年間にふつうの人が浴びても良い、とされるのは自然放射線に加えて1ミリシーベルトまでとなっている。

Q. 強く浴びるとどうなる?
A. 急性障害のほか、様々な悪影響が出るおそれがある。

 被曝してまもなく現れる症状を急性障害という。全身に浴びる量が1ミリシーベルトの1000倍である1シーベルトを越すと、一部の人に吐き気が起きる。3シーベルトになると大半の人が吐き気を感じ、放射線によるやけどで皮膚に赤い斑点ができる。髪の毛も抜ける。約4シーベルトを浴びると、約半数の人が数カ月以内で死亡する。過去の例では、7シーベルトを超えると多くの人が数週間で死ぬと言われている。
 放射線で死亡する場合の直接の死因は、胃腸や食道など消化器の表面の細胞が破壊されたことによる出血や、骨髄の細胞が破壊されることで免疫機能を失った結果であることが多い。
 放射線は粘膜や骨髄など、ふだんからさかんに分裂している細胞に大きな障害を与える。細胞は分裂時に強い放射線の直撃を受けると、遺伝子の本体であるDNAが切れたり、傷ついたりする。
 一方、数年から数十年以上経過して現れる障害を、晩発性障害という。代表的なものはガンである。ガンは遺伝子の異常で起きるが、放射線はDNAを傷つけるので、発生のリスクが増す。その代表格は白血病。広島の原爆被爆者では、被曝後7〜8年で発症のピークを迎えた。チェルノブイリ原発事故では、子供の甲状腺ガンが多発した。

Q. 放射線障害の治療法は?
A. 大量に浴びたら骨髄移植などが最後の手段になる。

 外から放射線が体を貫く「外部被曝」を受けた場合、その線量の大きさ次第で将来の健康影響のリスクは高まる。強い被曝で急性の症状がでた場合は、対症療法で治療することになる。免疫の働きが弱まるため、細菌への感染が大きな問題になる。
 患者を無菌室に入れ、抗生物質で体に入った細菌を退治する。これで乗り切れればいいが、骨髄にある造血幹細胞が破壊されると深刻である。この細胞は白血球、赤血球、血小板など主要な血液成分をつくる働きを持っている。このため、別の人から造血幹細胞をもらう治療が必要になる。造血幹細胞は骨髄のほか、へその緒や、胎盤の血の中にたくさんあるほか、少ないがふつうの血液の中にもある。
 他人の骨髄をもらうのが骨髄移植、へその緒の血の場合はさいたい血移植、血液から取り出した幹細胞では末梢血幹細胞移植という。いずれも移植は点滴の形で、血管に入れる。
 一方、汚染された食べ物などによる「内部被曝」の場合は、放射性物質がくっつく薬を飲ませて排出させたり、胃腸を洗浄したりする方法があるが、それほど効かない。体内の放射能は排泄によって少しずつ体外に排出される。
 空気中を浮遊する放射性物質が体に付着した場合は、シャワーで洗い流す。服は洗濯する。軽い被曝の場合、これがもっとも大事で唯一とも言える有効な手段である。

Q. どうすれば身を守れるか?
A. 「距離」、「遮蔽」、「時間」の三原則が大事。

 距離の原則とは、放射線の源から離れること。放射線の影響は、距離の二乗に比例して弱まる。
 第二は、飛んでくる放射線を遮ること。α線やβ線は透過力が弱いため、家の中に入って極力外気を入れないようにすれば、かなり防ぐことができる。問題は透過力の強いγ線や中性子線。γ線の場合は、重い物質ほど透過力を弱めるため、発生源を遮蔽力の強い鉛の板などで覆うのが被害を小さくする第一歩。一方、中性子が核分裂で飛び出してくる速度は非常に速いため、いったん鉄などにぶつけて少し速度を落とし、次に見ず、パラフィンなど軽い物質に当ててさらに減速する方法が用いられている。
 最後に時間の原則とは、放射線を浴びる時間をできるだけ少なくすることである。


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