希土類元素のお話

  メニュー

 TOPページ 

 日本情報 

 海外事情 

 辞典 

 医学の話 

 科学の話 

 食品の話 

 知識の宝箱 

 メモ帳 

  



更新日:
 2008年6月28日







希土類元素とは
 希土類元素とは、ランタノイド(原子番号57〜71番)に属する15元素にスカンジウム、イットリウムを加えた17元素の総称です。
 すなわち、原子番号21 のスカンジウム(Sc)、39のイットリウム(Y)のほか、57のランタン(La)、58のセリウム(Ce)、59のプラセオジム(Pr)、60のネオジム(Nd)、61のプロメチウム(Pm)、62のサマリウム(Sm)、63のユウロピウム(Eu)、64のガドリニウム(Gd)、65のテルビウム(Tb)、 66のジスプロシウム(Dy)、67のホルミウム(Ho)、68のエルビウム(Er)、69のツリウム(Tm)、70のイッテルビウム(Yb)、71のルテチウム(Lu)の17元素です。

希土類の埋蔵量
 希土類元素は、『稀』土類元素とも書かれるように、稀で高価な金属とされていました。しかし、実際には、セリウム(Ce)は錫(Sn)よりも多く、イットリウム(Y)は鉛(Pb)よりも多く存在しており、決して『稀(まれ)』ではなく、その特性を考えれば『希』望の元素と言えるのではないでしょうか。
 1985年にアメリカ鉱山局が発表した希土類の埋蔵量は4,500万tonであるが、世界の埋蔵量の80%が中国に偏在しているといわれています。しかし、これ以外にも世界各地から報告されており、約100倍の40億tonの埋蔵量があるとする人もいます。いずれにしても、希土類は豊富に存在していることが分かります。
 ネオジウム(Nd)の産出量は希土類の約15%を占めていて、サマリウム(Sm)の約2%よりも豊富に存在しているため、ネオジ磁石が安価に生産されています。

発見の経緯
 ランタノイドは、いくつかの元素が合わさって、鉱物に含まれていることが多いです。そのため、精練抽出することが難しく、発見されたのが比較的遅かったのです。18世紀(約200年前)にスウェーデンのイッテビーの村でイットリウムが見つかったのが最初で、レアアース(rare earth:希な土)と名付けられました。
 多くは19世紀に発見されましたが、20世紀になってからはEu(ユウロピウム)、Lu(ルテチウム)、Pm(プロメチウム)が発見されました。この内、プロメチウムは鉱物として存在せず、放射性元素としてのみ存在し、第二次大戦中のマンハッタン計画における副産物として発見されました。

特徴
 希土類元素は、性質が互いによく似ています。陽イオンとしての性質が良い例です。通常の溶液状態では全て3価であり、イオン半径は隣同士が非常に接近しています。ランタノイドでは、電子配置も外殻はまったく変わらないため、ある特定の化学物質に対する反応は完全に同じであり、その結果、生成物の性質もよく似ています。
 希土類元素の電気陰性度は、アルカリ土類金属に次いで陽性が高く、金属としては、かなり反応性に富んだ元素と言えます。電気陰性度において陽性が高いことから、イオン結合性が強いこともうかがえるので、希土類の化合物はイオン結合でできているものが多いということが予想されます。
 面白い特徴としては、ウランの核分裂による生成物はランタノイドが多いということです。

用途
 希土類という言葉を広く普及させたのは、アルニコ磁石(鉄・アルミニウム・ニッケル・コバルトの合金磁石)をしのぐ特性をもつ希土類磁石です。希土類元素(サマリウム、ネオジムなど)と鉄、コバルトなどの遷移金属との金属間化合物という未知の領域の研究が進められ、1960〜1970年代に、まずサマリウム・コバルト磁石が開発されました。その後、1980年代にネオジム磁石(ネオジム・鉄・ボロン系磁石)が開発されました。
 現在、希土類磁石の主用途の一つとして多用されているのは、パソコンのHDD(ハードディスクドライブ)の磁気ヘッドを駆動するVCM(ボイスコイルモーター)です。このほか、電気自動車やハイブリッドカーなどの駆動モーター用磁石としての利用も広がっています。
 希土類は、ライターの発火石、ガラス用研磨剤、カラーテレビのブラウン管の蛍光塗料(セリウム、イットリウムおよび、ユウロピウムなど)に使用されるなど、様々な需要があります。また、新しい利用法としてSmCo系、NbFeB系永久磁石の分野を確立したほか、触媒、水索吸蔵合金(2次電池)、酸化物高温超伝導合金材料、光磁気記録材料(FD)、超磁歪計および、固体電解質燃料電池などがあります。また、希土類元素による機能性材料の工業的応用例としては、超磁気歪材料を使った海洋音響トモグラフィーの開発、ANC(Active Noise Control)システムなどが考案されました。このANCシステムは、発生する騒音の音波を分析し、振幅が同じで波の位相が逆の音をスピーカー(希土類磁石)から流し、低周音波を消去するもので、このシステムを応用した自動車の静音化計画があります。
 カラーテレビ用の赤色蛍光体として、イットリウムの一部をユウロピウムで置き換えたものが使われています。似たような用途として、蛍光剤として、緑にはランタン、セリウム、テルビウが、青にはユウロピウムが使われています。
 医療用にも、レントゲンフィルムのX線増感剤としてガドリニウム、テルビウム、ランタンが使用されています。
 ガーネットは、YIG(イットリウム・鉄・ガーネット、Y3Fe5O12)、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット、Y3Al5O12)、GGG(ガリウム・ガドリニウム・ガーネット、Gd3Ga5O12)などとして、携帯電話の誘電体素子、コンデンサー、バリスターなどに使用されています。また、レーザーとしても使われています。
 光ファイバーのフッ化ガラスにプラセオジウム、エルビウムをドープしたフッ化光ファイバーは、ファイバーアンプとして、通信用光増幅器に使用されています。また、プラセオジウム、ホルミウム、ツリウム等をドープしたフッ化光ファイバーは、可視および近赤外領域用の固体レーザーとして利用されています。
 サマリウム・コバルト磁石(SmCo5)は1968年に開発されました。身近なところでは、ウォークマンなどのポータブル・オーディオ機器のイヤホン、モーターや、腕時計の中に使われています。
 サマリウム、コバルトは比較的高価な金属であったため、安価な磁石が研究された結果、ネオジム・鉄・ホウ素系の磁石が開発されました。ただし、強磁性を失う温度(キュリー温度)が、サマリウム・コバルト合金に比べて低い、鉄を含んでいるために錆びやすい、という問題点があります。しかし、現在までに様々な改良がされ、今ではサマリウム・コバルト磁石よりも幅広く使われています。
 いくぶん磁性は弱いのですが、さらに安価な合金磁石として、セリウム・コバルト磁石も作られています。セリウム・コバルト磁石でも、フェライト磁石より、はるかに強い磁性を持っています。
 希土類金属、マグネシウム系、チタン系の合金に見られる性質の一つに、金属結晶中に水素を吸収したり放出したりする特性があります。ランタン・ニッケル合金もその一つであり、大量の水素を吸収したり、放出したりできます。ランタン・ニッケル合金粉末を高圧下で水素と接触させるとLaNi5O6という組成を持つ化合物ができます。
 水素ボンベの水素は高圧で、急激に噴射するとその際の摩擦熱で引火、爆発することもあります。しかし、ランタン・ニッケル合金から放出される水素は圧力が低く、安全性が高いです。合金の値段や、寿命などの問題がありますが、同じ大きさのボンベにおいては、水素貯蔵合金の方がより多くの水素を貯蔵できます。水素は、燃えても二酸化炭素を発生しないため、燃料としても期待されているため、水素貯蔵合金は利用価値の高い物質であると言えます。
 希土類を含むセンサーはいくつかあり、酸化ジルコニウムと酸化イットリウムの合金は、酸素イオンセンサーとして利用されています。他に、フッ化物イオンの検出用センサーとして、フッ化ランタンが用いられています。
 一番多くセンサーとして用いられているのは放射線検出用で、X線用シンチレーター(X線の線量を測定する)として、ガドリニウム、プラセオジム、ユウロピウムなどが使われています。これらは、今まで使われてきたキセノンの検出器よりもはるかに感度が良いため、患者の受けるX線量を大幅に減らすことができるのが利点です。
 同じようにユウロピウムを使ったシンチレーターは、原子炉に於いてγ線、中性子の検出にも使われています。


inserted by FC2 system