ツバメの巣
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更新日:
 2014年10月7日






◎燕の巣
 燕の巣(つばめのす、漢名:燕窩)は、アナツバメ類のうち、ジャワアナツバメなど、数種類のツバメの巣で、広東料理の高級食材とされています。
 アナツバメ類は、アマツバメ目アマツバメ科に属し、東南アジア沿岸に生息しています。アマツバメ科は、極端に空中生活に適応したグループであり、繁殖期を除いて、ほとんど地表に降りることはありません。一説には、睡眠も飛翔しながらとると言われるほどです。巣の材料も地表から集めるのではなく、空気中に漂っている鳥の羽毛などの塵埃を集め、これを唾液腺からの分泌物で固めて、皿状の巣を作ります。
 中でも、アナツバメ類の一部は、空中から採集した材料をほとんど使わず、ほぼ全体が唾液腺の分泌物の巣を作ります。一般には、海藻と唾液を混ぜて作った巣と言われていますが、この認識は正しくなく、海藻は基本的には含まれない。
 アナツバメの巣は、海岸近くの断崖に作ります。アナツバメの巣の採取については、東南アジア各国で採取の時期、採取方法などを厳重に管理し、またアナツバメの生息地の環境保護のために立ち入り制限を行っています。アナツバメは、雛が巣立ちしてしまうと同じ巣を利用することはないため、アナツバメが放棄した巣を採取しています。オスは次の発情期になれば、また、唾液腺から特殊な分泌物を吐き出して新たに巣を作ります。
 断崖絶壁における採取作業は、非常に危険が伴う作業です。阮葵生(1727年〜1789年)が記した「茶余客話」という書物には、「よく訓練した猿に布袋を背負わせて採取した」と記されているそうです。
 アナツバメの巣は、世界中で高い人気を誇る食材となっており、スープの具やデザートの素材や飾り付けとして用いられています。
 中華料理の中でも、特に広東料理で利用されています。元末明初頃に中華世界に知られるようになり、清代には、ふかひれや乾しあわびと並ぶ高級中華食材として珍重されるようになったいきました。燕の巣が出る宴席は「燕菜席」と呼ばれ、満漢全席に次いで格式の高い宴席となっています。
 2013年、中国政府は綱紀粛正の一環として、接待の宴席に高級料理を用いることを禁じました。この際、高級食材の例としてふかひれとともにツバメの巣が挙げられるなど、21世紀の現代においても贅沢品の代表格であることが伺えます。
 ツバメの巣は、独特のゼリー状の食感が特徴です。タンパク質と多糖類が結合したムチンが主成分であり、タンパク質と共に、糖質の一種であるシアル酸を多く含んでいます。また、インターロイキン-6や上皮成長因子(EGF)、繊維芽細胞成長因子(FGF)様のサイトカインが多種含まれることが分かっています。古くから美容と健康に良いとされている漢方食材で、清の西太后も連日のように食したと伝えられています。
 巣によっては、羽毛などの巣材を含むものから、全くと言っていいほど含まないものまで差があるようです。混ざり物などが少なく作られて間もない物が重宝され、高値がつきやすいそうです。調理に際しては、湯で柔らかく戻してから、ピンセットなどで丁寧に羽毛などを除去する必要があります。
 中国では、古くから赤い燕の巣が珍重されてきました。現在でも赤い巣、オレンジ色の巣が高価で取引される傾向があるため、顧客の好みの色に着色して出荷する生産者も珍しくないようです。赤やオレンジに発色する原因は、岩石からの鉄分や壁土などの色素を含むからとも、発酵の結果によるともされているようですが、詳細は分かっていないようです。また、赤やオレンジ色の巣には、人体に有害な亜硝酸塩が多く含まれているという調査報告もあるようです。亜硝酸塩は水溶性なので、水で洗い流すことが出来ますが、天然、着色を問わず、水で洗い流すことによって赤やオレンジの色素もなくなってしまいます。
 見た目の立派さが価格に影響することもあり、乾燥した巣の表面に糊を塗布して外観を整える手法も広く行われているようです。水に溶いた巣のほか、海藻、豚皮、ラード、植物樹脂などが糊として用いられるケースがあるようです。また、白さを強調するために薬品によって漂白された燕の巣は、独特の匂いが無くなっていたり、薄くなっています。


◎ツバメの巣、タイ・バンコク(2011年3月7日、毎日新聞、東京夕刊)
 一見、春雨のようにも見えるが、舌触りはとろりとしている。口の中で溶けてしまいそうな繊細さだ。タイの首都バンコクの中華街・ヤワラー通り。通りから一本入った雑然とした路地にある「義福巷魚翅燕窩(ぎふくこうぎょしえんか)」(タイ語名「プランナム・レストラン」)という小さな店で、清の西太后も毎日のように口にしたとされる中華料理の高級食材「ツバメの巣」を初めて味わった。
 ほのかに甘いシロップに最高級のツバメの巣が浮かぶデザートは、小ぶりの茶わんで1杯1000バーツ(約2700円)。タイの物価は日本の3分の1から4分の1程度だから、地元の感覚でいえば「1杯1万円のデザート」。屋台なら20〜30人が食事できる値段だ。
 店内では店員のジューさん(28)が、水で戻したツバメの巣からピンセットで細かい羽毛などを取り除く。その手つきは宝石を扱うように慎重だ。脇のテーブルでは2人で1杯を注文した香港から来た若いカップルが、「一度食べてみたかったんだ」と神妙な顔つきで口に運ぶ。
 バンコクといえば日本人にも人気の観光都市。だが、日本人を上回る存在感を示すのが中国本土、台湾、香港、シンガポールなどから訪れる華人観光客だ。彼らでごった返すヤワラー通りは、横浜や神戸の中華街と似た雰囲気で、飛び交うツバメが描かれた「ツバメの巣」の絵看板が目立つ。デザートやスープとして店内で味わうこともできるが、多くの店は輸出用の卸売りや、観光客向けの小売販売も兼ねている。
 中国本土から遠く離れたバンコクの中華街がツバメの巣の本場なのは、食用となる巣が、主に東南アジアの沿岸部に生息するアナツバメ類のものに限られるからだ。アナツバメは唾液に含まれる特殊な成分を使って巣を作る。日本にもいる普通のツバメは、枯れ草や泥などを唾液で固めて巣を作るが、アナツバメは唾液だけを使う。
 値段が高いのはその希少性のためだ。アナツバメの営巣地は海岸沿いの断崖絶壁。専門の採取人が命がけで数十メートルのがけを登り、先に特殊な機具を付けた長い棒を使って採取する。中国・広東省潮州出身の祖父母が「義福巷魚翅燕窩」を開店した沈美鳳さん(30)によると、タイやインドネシアなど主な産地国が乱獲を防ぐため採取の時期や方法を厳しく規制。一方中国本土の経済成長で需要が高まり、20年前1キロ3万〜4万バーツだった高級品の取引価格は、今では10万バーツ(約27万円)に達している。
 何とかツバメの巣を安定的に供給することはできないか。10年ほど前、ヤワラーに店を開く華僑たちが思いついたのが「アナツバメのマンション」の建設だ。鳥たちには、断崖と環境が似たコンクリートのビルに巣を作る習性がある。沈さん一家も1000万バーツかけて、タイ東部の海岸沿いに6階建てのツバメのマンションを新築した。
 一見、内装工事前のマンションのように見える「マンション」産の巣の価格は、天然ものの7〜8割程度。しかし安定供給が可能になり、現在では売り上げの6割をマンション産が占めるようになった。
 数世代前に故郷を離れタイに移住した中国系の人々は、今ではすっかりタイ社会に溶け込み、漢字を読み書きできる人も減っている。それでも世界各地で活躍する「華僑」としての、商売繁盛への熱い思いは健在だ。沈さんは「フードフェアにも出品し、販路を広げるつもり」と意欲的だ。
 「ツバメの巣」は香港では、フカヒレ、干しアワビと並んで「中華三大珍味」とされる。主成分はアナツバメの唾液に含まれる「ムチン」という物質。動植物が分泌する粘り成分で、納豆や山芋、オクラなどのネバネバと同じだ。1000年以上前に中国の船員が東南アジアから持ち帰ったのが食用の起源とみられ、健康や美容によい漢方食材として古くから珍重されてきた。
 湯や水で戻した後、羽毛などの不純物を根気よく取り除く必要がある。産地や色、不純物の有無などでさまざまな等級がある。「義福巷魚翅燕窩」でも最も安いものは1杯200バーツ(約540円)で食べられる。


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