タイラギ
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更新日:
 2019年4月8日


◎タイラギ(2019年3月10日)
 タイラギ(玉珧、Atrina pectinata)は、イガイ目ハボウキガイ科に属する二枚貝の一種です。内湾の砂泥底に生息する大型の二枚貝で、重要な食用種です。標準和名の「タイラギ」は「平貝(たいらがい)」が転訛したものと言われています。
 日本に生息するタイラギには、殻の表面に細かい鱗片状突起のある型(有鱗型)と、鱗片状突起がなくて殻の表面の平滑な型(無鱗型)の2型が存在します。これら二型は、生息環境の相違による同一種内の形態変異とみられていましたが、アイソザイム分析(Isozyme)によって遺伝学的に調べた結果、有鱗型と無鱗型は別種であることが判明しました。さらに、これら二型間の雑種も自然界にかなり普通に(10%以上)存在することも明らかとなりました。雑種は有鱗型と無鱗型の中間的な形態を示し、そのため、有鱗型から無鱗型への連続した形態変異のように見え、それが両者が同一視されていた理由の一つでした。
 日本の多くの地域において、有鱗型の方がかなり多く、一般的に知られているタイラギは有鱗型である場合が多いようです。このため有鱗型を一般名である「タイラギ」と呼び、無鱗型が多く獲れる兵庫県、岡山県、香川県、山口県、大分県、佐賀県などで「ズベ」という呼称が共通して用いられていたことから、無鱗型を「ズベタイラギ」と呼ぶことが多いようです。
 日本では房総半島以南に分布し、内湾の10m未満からおよそ50m程度の深度に生息しています。東京湾、伊勢湾、三河湾、瀬戸内海(播磨灘、大阪湾、備讃瀬戸、備後灘、周防灘、伊予灘)、有明海などが主要な生息地です。現在の主要産地としては、三河湾、播磨灘、備讃瀬戸、伊予灘です。海外では、西太平洋からベンガル湾にかけて分布するとされていますが、日本での2型のような同胞種が多く存在する可能性があると言われています。
 タイラギは朝鮮半島と中国でも水産上の重要種となっています。韓国でも有鱗型と無鱗型の2型が生息しています。また中国では、形態的、遺伝的に区別される4型が存在するとされ、分類学的整理が望まれています。
 タイラギは殻長30cm以上、殻高20cm以上に達する大型種です。国内で食用になる二枚貝としてはもっとも大型の貝です。ただし、一般に食べる部分は貝柱のみです。殻は殻頂がとがった三角形で、薄く黒もしくは濃いオリーブ色の平たい貝です。殻の内面にはかすかな真珠光沢があります。殻の外面には弱い放射肋があり、有鱗型では肋上に細かい鱗片状突起が並んでいます。殻は薄質で、壊れやすいです。
 殻が大きいため軟体部も大きいのが特徴です。2つの閉殻筋(貝柱)のうち前閉殻筋は殻頂付近にあり小さいですが、後閉殻筋は殻の中央部にあり、大型個体では直径5cm以上に達します。外套膜(ヒモ)はクリーム色から橙色をしており、長くて分厚いのが特徴です。足は細くて小さいです。
 貝殻のとがった方(殻頂)を下にし、海底に刺さるようにして生息しています。さらに足の付近から、緑褐色で長さ10~20cmほどの、絹糸のような足糸をたくさん出して砂粒や小石を付着させて体を固定します。砂泥の上には殻の後端部がわずかに顔を出すのみです。有鱗型(タイラギ)は州や沿岸域などの浅海部の主に砂質に多く、それに対して無鱗型(ズベタイラギ)はやや深い海域の主に泥質に生息しています。
 産卵期は夏で、産み出された卵は海中に放出され、同じく放出された精子と受精します。孵化した幼生はしばらく海中を漂いながら成長し、やがて着底します。成長は早く、2年後には殻長が20cmを超えるまでに成長します。
 食材として、大きな閉殻筋(いわゆる貝柱)をそのまま、もしくは薄切りにして提供されます。日本では刺身、寿司種、焼き物、汁物など、様々な食べ方に利用されます。中国では、広東料理や潮州料理で使われることが多く、蒸したり、炒めて食べる事が多いです。主な料理としては塩蒸し、ニンニク蒸し、豆豉蒸し、XO醤炒め、鉄板焼きなどです。韓国では「키조개(キジョゲ)」といい、刺身(フエ)、炒め物、鍋物、鉄板焼きなどの各種料理に利用されています。
 生食では柔らかくて甘いですが、火を通すと歯ごたえと旨みが増します。また、外套膜(ヒモ)も生食のほか、焼き物でも食べられるようですが、関東では、ほとんど見られません。ヒモの部分は一般には調理の際に廃棄されてしまう場合が多いようですが、バター焼きなどにするとコリコリとした食感で美味だそうです。タイラギの旬は冬とされています。
 大きい貝殻に一個だけの貝柱を食べるため、非常に高価な食材です。高度成長期、バブル期などまでは、築地市場で1個1,500円を超す高値を付けられていたそうです。これが赤坂や築地、銀座の料亭に行くと6,000~7,000円という高値で提供されていたそうです。また、選挙のある年や衆議院解散前になると、料亭での需要が増すため、一気に値が跳ね上がり、超高級食材となっていたようです。その結果、韓国産の廉価なタイラギや、ホタテガイの養殖品が大量に出回るようになり、徐々に値段が下がっていき、現在では高値でも1kgで6,000円くらいのようです。1個あたりでは400円から600円くらいになるようです。ただ、希少性と美味しさから、「貝柱の王様」と呼ばれることもあるようです。一般にはほとんど出回らず、主に料理店などで利用されるほか、高級寿司ネタの一つとして有名です。
 かつては有明海が有名でした。1961年には3万5000トンの漁獲量(貝柱だけでは1/10程度なので、約3,500トン)を誇っていましたが、その後、漁獲量は年々減少の一途をたどり2000年以降はほとんど獲れなくなってしまいました。現在では香川県沖の備讃瀬戸が全国でも有数の漁場となっています。タイラギは海底の砂に埋まっていて、頭をほんの少ししか砂の中から覗かせていないため、漁師さんは極寒の海に潜り、手作業で貝を獲っているのだそうです。
 有明海では2006年度から(独)水産総合研究センター西海区水産研究所がタイラギの養殖技術の研究を始め、2015年4月には、有明海沿岸の漁業協同組合等の協力を得て、稚貝約1,000個体の垂下育成試験が行われています。



・刺身




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