食中毒の話

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更新日:
 2020年5月3日






◎食中毒のはなし(2020年5月2日)
 食中毒とは、細菌やウイルス、有毒な物質がついた食べ物を食べることによって下痢、腹痛、発熱、吐き気などの様々な症状が出る病気のことです。食中毒の原因によって、病気の症状や食べてから症状が出るまでの時間は様々です。時には命にもかかわるとても怖い病気です。
 食中毒というと、夏場に多く発生しているイメージがあるかもしれませんが、実際には1年中、発生しています。1998年には年間で3,000件、45,000人の患者が発生していました。その後、少しずつ件数、患者数ともに減少していますが、2016年は年間で1,139件、20,252人の患者が発生し、14名が亡くなっています。2017年は1,014件、16,464人の患者が発生し、3名が亡くなっており、2018年は1,330件、17,282人の患者数、死亡者が3人と、毎年、千件以上の件数と1万5千人の患者が発生しています。
 食中毒の原因は、色々、ありますが、およそ以下のように分類できます。
 1. 細菌による感染症
 2. ウイルスによる感染症
 3. 寄生虫による感染症
 4. 有毒な植物や魚介類、キノコ類の摂取
 5. 殺虫剤など毒性のある化学物質(薬品)や鉛など重金属の摂取
 2000年から2018年の統計調査によると、食中毒の原因としては、カンピロバクターとノロウイルスが300件以上と飛びぬけて多く、これ以外はウエルシュ菌、大腸菌、サルモネラ菌、ブドウ球菌、腸炎ビブリオが50件程度と多いようです。
 2018年の1,330件に関する調査結果では、下記のような原因が確認されています。

原因物質 割合 件数
アニサキス 35.2% 468
カンピロバクター・ジェジュニ/コリ 24.0% 319
ノロウイルス 19.2% 255
植物性自然毒 2.7% 36
ウェルシュ菌 2.4% 32
腸管出血性大腸菌(VT産生) 2.4% 32
ブドウ球菌 2.0% 27
腸炎ビブリオ 1.7% 23
化学物質 1.7% 23
サルモネラ菌 1.4% 19
その他の病原大業菌 0.6% 8
セレウス菌 0.6% 8
赤痢菌 0.1% 1

 この結果からは、細菌と寄生虫を原因とする食中毒が、それぞれ約35%、ウイルスが約20%で、この3種類で90%程度を占めています。有毒な植物などは約3%、化学物質は約2%ということになります。
 原因となる食品は2018年の統計調査によると、約33%が魚介類およびその加工品、約5%が肉類およびその加工品、野菜およびその加工品が約3%です。それ以外はコロッケや肉と野菜の煮付けなどの複合調理食品や、原因が特定されていないようです。
 食中毒の原因毎に、それぞれの詳細をまとめます。

1. 細菌による感染症
 細菌に感染した食品を摂取し、体内で増殖した細菌が病原性を持つことで起こる食中毒です。 代表的な原因菌としてサルモネラ、腸炎ビブリオ、病原性大腸菌などがあります。
 細菌を食べることが問題なので、加熱、環境消毒、手洗いを行って食物へ細菌を付着させないことが重要です。
 主な細菌の分裂時間を下記に示します。ここで至適温度とは、最も増殖に適した温度のことです。

菌種 至適温度(℃) 分裂時間(分) 1時間後 2時間後 6時間後 12時間後
腸炎ビブリオ 37 9 64 8,192 1.1×10^12 1.2×10^24
腸管出血性大腸菌 37 18 8 64 1,048,576 1.1×10^12
黄色ブドウ球菌 37 23 4 32 32,768 2.2×10^9
サルモネラ 40 18 8 64 1,048,576 1.1×10^12
カンピロバクター 42 48 2 4 128 32,768

 最も分裂時間が短い腸炎ビブリオでは、1個の菌が1時間後には64個、2時間後には8,000個以上に、6時間後には10兆個にまで増えてしまいます。食中毒のニュースでよく聞く大腸菌やサルモネラでも6時間後には100万個、12時間後には10兆個に増えます。細菌の分裂を防ぐには、食材を冷蔵庫など低温で保存することが重要です。

・カンピロバクター(Campylobacter jejuni/coli)
 牛、豚、鶏、猫や犬などの腸の中にいる細菌です。この細菌が付着した肉を生で食べたり、加熱不十分で食べたりすることによって、食中毒を発症します。まれにペット(犬、猫、小鳥)や水(井戸水、湧水)から感染することもあります。
 乾燥に弱く、加熱すれば菌は死滅します。
 発祥するまでの期間は1〜10日(平均3〜5日)程度です。
 主な症状は、吐き気、おう吐、腹痛、水のような下痢で、初期には発熱、頭痛、筋肉痛、倦怠感などがみられます。ギランバレー症候群(神経障害)を発症する場合もあるそうです。
 十分に火が通っていない焼鳥、十分に洗っていない野菜、井戸水やわき水からの感染が報告されています。

・ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)
 人や動物の腸管や土壌などに広く生息する細菌です。食品では食肉や野菜の汚染率が高いとされています。酸素のないところで増殖し、芽胞を作るのが特徴です。芽胞は100℃、1〜6時間の加熱に耐えるため、加熱だけでは対策になりません。
 食物と共に摂取されたウェルシュ菌は腸管内で増殖し、芽胞を形成する際に毒素(エンテロトキシン)を作り、これが腸管粘膜に作用して食中毒が起きます。そのため生体内毒素型と呼ばれます。1事例当たりの患者数が多く、しばしば大規模発生があります。
 ウェルシュ菌は嫌気性菌の中でもボツリヌス菌のように絶対嫌気性ではないため、酸素に対して比較的、抵抗性を持っています。至適発育温度は43〜46℃で、分裂時間は45℃で約10分と非常に短く、増殖速度が速いです。
 カレー、煮魚、麺のつけ汁、野菜の煮付けなどの煮込み料理が原因食品となることが多く、対策としては、加熱調理した食品は、冷却を速やかに行い、室温で長時間放置しないことです。食品を保存する場合は、10℃以下か、55℃以上を保つことが重要です。
 また、食品を再加熱する場合は、十分に加熱して増殖している菌(栄養細胞)を殺菌し、早めに食べることです。ただし、加熱しても芽胞は死滅しないこともあるため、加熱を過信しないことです。
 発祥するまでの期間は食後6〜18時間程度です。
 主な症状は、下痢と腹痛です。症状は一般的に軽い方です。
 原因食品としてカレー、シチュー、ロールキャベツなど、食肉と野菜類が加熱調理された食品で多く発生しています。弁当や給食にも注意が必要です。ウェルシュ菌はタンパク質を分解しないため、食品の変質を起こさず、見た目や臭いでは分かりにくいです。

・腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli ; EHEC)(O157やO111など)
 牛や豚などの家畜の腸の中にいる病原大腸菌の1つで、O157やO111などがよく知られています。大腸菌は、家畜や人の腸内にも存在します。ほとんどの大腸菌は下痢の原因になることはありませんが、このうちいくつかは人に下痢などの消化器症状や合併症を起こすことがあり、病原大腸菌と呼ばれています。
 病原大腸菌の中には、毒素を産生し、出血を伴う腸炎や溶血性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome、HUS)を起こす腸管出血性大腸菌と呼ばれるものがあります。
 腸管出血性大腸菌は、菌の成分(「表面抗原」や「べん毛抗原」などと呼ばれています)によって、さらにいくつかに分類されています。代表的なものは「腸管出血性大腸菌O157」で、そのほかに「O26」や「O111」などが知られています。
 腸管出血性大腸菌は、牛などの家畜や人の糞便中に時々見つかります。家畜では症状を出さないことが多く、外から見ただけでは、菌を保有する家畜かどうかの判別は困難です。
 腸管出血性大腸菌は食肉などに付着し、肉を生で食べたり、加熱不十分な肉を食べたりすることによって発症します。乳幼児や高齢者などは重症化し、死に至る場合もあります。
 腸管出血性大腸菌による食中毒の原因食品としては、牛肉(特に牛ひき肉)、チーズ、牛乳(特に未殺菌乳)、牛レバーなど牛に関連する食品(非加熱または加熱不十分のもの)が多いそうです。また、野菜による事例が世界的に多く報告されており、米国では、非加熱または最小限の加工がされた野菜や果物(レタス、アルファルファ、ほうれん草、アップルジュース、メロンなど)が原因食品の事例が報告されているが、これらは生産段階での牛糞の汚染の関与が疑われているようです。
 腸管出血性大腸菌は75℃で1分間以上の加熱で死滅しますので、よく加熱して食べれば防ぐことができそうです。低温殺菌牛乳は63℃で30分の加熱処理がされており、腸管出血性大腸菌は死滅しているとされています。
 発祥するまでの期間は1日から最長14日間で、平均4〜8日とされています。
 主な症状は、激しい腹痛や水のような下痢、出血性の下痢で、症状は重い方です。症状が重くなると、死に至ることもあります。
 十分に加熱されていない肉、よく洗っていない野菜、井戸水やわき水などからの感染例が報告されているそうです。菌には数種類がありますが、十分に加熱すれば防げます。ヒトからヒトへの感染ありますので、手洗いも念入りに行いましょう。

・黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
 ブドウ球菌は自然界に広く分布し、人の皮膚や喉、鼻や口にもいます。調理する人の手や指に傷があったり、傷口が化膿したりしている場合は、食品を汚染する確率が高くなります。汚染された食品の中で菌が増殖し、毒素(エンテロトキシン)が作られ、この毒素が胃や小腸の粘膜に作用して食中毒を引き起こす経口毒素型です。毒素自体は耐熱性のため、加熱して菌を殺しても食品中に毒素が残り、食中毒を起こします。
 ブドウ球菌は、酸性やアルカリ性の環境でも増殖し、作られた毒素は熱にも乾燥にも強いという性質があります。一度、毒素ができてしまうと、加熱しても食中毒を防ぐことはできません。
 発祥するまでの期間は3〜5時間程度です。
 早いと30分〜3時間程度で、急激におう吐や吐き気、腹痛、下痢(水様便)などが起こります。
 おにぎりやサンドイッチ、巻きずし、調理パン、弁当など、加熱した後に手作業をする食べ物が原因となることが多いです。手指の洗浄消毒が有効ですので、手指に傷や化膿創のあるときは、加熱なしの調理は避ける必要があります。

・腸炎ビブリオ菌(Vibrio parahaemolyticus)
 海水中(河口部、沿岸部など)に生息している菌で水温20℃以上で増殖します。夏〜秋口に多く発生しています。刺身や寿司など、生の魚介類、海産物やその加工品が原因となることが多いです。室温でも速やかに増殖する上、3%前後の食塩を含む食品中でよく増殖するため、海産物を室温中に放置しておくと急激に増殖してしまいます。
 真水、酸や熱に弱いのが特徴です。ただし、冷凍でも長期間生存できるため、冷凍されているからという安心はありません。
 発祥するまでの期間は、食後4時間〜96時間です。
 主な症状は、吐き気、おう吐、激しい上腹腹痛、下痢です。
 刺身や寿司から感染する場合があります。買ってきた魚介類は5℃以下で保管し、調理前に真水で洗浄することが良いです。75℃で1分以上、加熱調理をすると安心です。

・サルモネラ菌(Salmonella enterica)
 牛、豚、鶏、猫や犬などの動物の腸管、自然界(川、下水、湖など)に広く分布している細菌です。ネズミ、家畜、昆虫類、は虫類、両生類など広範な動物を宿主として広く分布しており、食品を介して感染する場合が多いようです。
 牛、豚、鶏などの食肉、生卵などが主な原因食品となるほか、ペット(イヌ、ネコ、ミドリガメ)やネズミ、野生動物などからも感染します。
 乾燥に強いですが、熱に弱いのが特徴で、一般には60℃、20分の加熱で死滅します。また10℃以下ではほとんど発育しないので、食品は低温で保存することが重要です。食品食べる時には、十分に加熱調理をするのが効果的です。
 発祥するまでの期間は8〜48時間程度です。
 主な症状は、38〜40℃の発熱を伴う急性胃腸炎、吐き気、おう吐、腹痛、下痢、発熱、頭痛です。発熱による全身倦怠は、普通は4〜5日程度で平熱となり、回復します。
 生卵、オムレツ、牛肉のたたき、レバ刺し、鶏肉、うなぎ、すっぽん、乾燥イカ菓子などから感染した例が報告されています。肉、卵は75℃以上、1分以上、加熱し、中心部までよく加熱調理をすることが重要です。卵の生食は新鮮なものに限る必要があります。

・セレウス菌(Bacillus cereus)
 河川や土の中など、自然界に広く分布している細菌で、加熱しても死滅せず、食品中で増殖すると毒素を生成します。芽胞は90℃、60分の加熱でも死滅せず、家庭用消毒薬も効きません。土がつきやすい穀類や豆類、香辛料などが主な感染源です。
 毒素の違いによって症状は、おう吐型と下痢型の症状に分けられます。ただし、症状はどちらも軽く、1〜2日で全快します。

嘔吐型:
 発祥するまでの期間は30分〜6時間。
 主な症状は、吐き気、嘔吐。
 ピラフ、チャーハン、茹でたスパゲッティなどが感染源として報告されています。

下痢型:
 発祥するまでの期間は8〜16時間。
 主な症状は、下痢、腹痛。
 食肉、野菜、スープ、弁当などが感染源として報告されています。

 穀物加工品(ピラフ、チャーハン、茹でたスパゲッティ)などを室温で6時間以上放置すると嘔吐毒が発生するため、必要以上に大量の米飯、麺類を調理すること、また室温の環境下に放置することは避けるべきです。米飯、茹でたスパゲッティなどが余った場合は、室温中に放置せず、8℃以下、または55℃以上で保存する。また、保存期間は可能な限り短くする必要があります。

・赤痢菌(Shigella)
 海産物(特に貝)、水、生野菜などが原因となります。特にヒトの糞便や吐物により汚染された食品や水が原因とされています。患者や保菌者の糞便、それらに汚染された手指、食品、水、ハエ、器物を介して直接、あるいは間接的に感染することが多いです。
 熱に弱く、65℃で死滅します。ただし、毒素を取り除くには80℃で10分以上の加熱が必要です。
 発祥するまでの期間は1〜7日で、3日位内に激しい腹痛、げり、血便などの症状が出ます。
 主な症状は、下痢と高熱(39〜40℃)です。
 日本国内よりも、海外旅行の際になることが多いようです。海外では生もの、生水、氷などは飲食しない事が重要です。

・エルシニア・エンテロコリチカ菌(Yersinia enterocolitica)
 エルシニア・エンテロコリチカは豚、犬、猫などの腸管や自然環境中にいる細菌です。シカ、イノシシ、ネズミなどの野生動物、犬や猫などのペットの糞便、河川水などから見つかっています。エルシニア・エンテロコリチカは冬期の食中毒の原因菌の代表的な存在です。
 この細菌の発育に適した温度は25〜30℃ですが、0〜4℃でも発育できる低温細菌で、冷蔵庫内の食品中でも増殖し、食中毒を起こします。
 耐熱性はなく、低温殺菌で十分殺菌されます。
 発祥するまでの期間は1〜36日で、通常は1〜2日以内に発症します。
 主な症状は、腹痛、下痢などの胃腸炎症状ですが、発熱、頭痛など風邪のような症状を伴うこともあります。また右下腹部痛、吐き気、嘔吐などの症状から虫垂炎と誤診されてしまう場合もあるそうです。
 食肉加工品(特に豚)、乳、乳製品などが原因として報告されています。冷蔵庫に保存した食品も安心できません。また、ヒトの腸管でも増殖します。

・リステリア・モノサイトゲネス菌(Listeria monocytogenes)
 リステリア・モノサイトゲネスは広範囲の家畜や家禽、野生動物、魚類など、様々な動物や河川水や下水、飼料などの環境のあらゆるところに存在しています。このため、様々な食品が汚染される可能性がありますが、特に乳、食肉などの動物性食品の危険性が高いといわれています。
 感染源や感染経路についてはほとんど不明ですが、諸外国では食品が媒介したリステリア症が多数報告されています。
 この菌の発育温度域は−0.4℃〜45℃と広く、至適発育温度は37℃です。低温でも増殖するため、冷蔵庫で保存した食品も安心できません。比較的、酸に強く、10%程度の高い塩分濃度でも増殖可能です。
 ただし、70℃の加熱で速やかに死滅します。
 発祥するまでの期間は24時間〜数週間で、長い場合は3ヶ月程度にまで広がるそうです。
 健康な大人の場合は無症状で経過することが多いそうですが、妊婦(胎児)、新生児、乳幼児、高齢者および基礎疾患を持つ人の場合は敗血症、髄膜炎などの中枢神経系の感染、または菌血症などを引き起こし、重症化することがあります。妊婦の場合は流産を起こすことがありますので、汚染の危険性が高い食品の飲食を避けるなどの注意が必要です。
 乳、乳製品、フレッシュチーズ、生肉、醗酵ソーセージ、食肉加工品、サラダ、魚介類加工品などが原因とされています。この他、ready-to-eat食品と呼ばれる、加熱しないでそのまま食べる調理済み食品(例えば、弁当、そう菜など)を中心にいろいろな食品が原因となっています。
 生野菜は直前によく洗うこと、その他の食品は加熱すれば大丈夫です。低温による長期保存を過信しないことが重要です。

・ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)
 土壌中、海、湖、河川などの泥砂中、動物の腸管など、自然界に広く生息している菌です。酸素のないところで増殖する嫌気性菌で、熱にきわめて強い芽胞(がほう)を作ります。芽胞という「固い殻に閉じこもった種子のようなかたち」になると熱、乾燥、消毒薬等に強い状態になり、増えることはできませんが厳しい環境でも長く生き延びます。ボツリヌス菌の芽胞は低酸素状態などの生育環境が整うと発芽、増殖が起こり、毒素が作られます。この毒素は、現在知られている自然界の毒素の中では最も毒性が強いと言われ、A〜Gまでの型に分類されています。
 ボツリヌス症は、食品中でボツリヌス菌が増えた時に産生されたボツリヌス毒素を食品とともに摂取したことにより発生するボツリヌス食中毒と、乳児に発生する乳児ボツリヌス症に分類されます。
 毒素の無害化には80℃で30分間の加熱が必要です。
ボツリヌス食中毒:
 発祥するまでの期間は通常、8〜36時間ですが、毒素量によっては2〜3時間から2週間に及ぶ場合もあります。
 初期症状は吐き気、嘔吐などで、めまい、頭痛、複視、瞳孔拡大、眼瞼下垂などがあります。症状が進むと発声困難、嚥下困難(物を飲み込みづらくなる)、起立不能、視力障害などの神経障害や脱力感、便秘などが起こります。最悪の場合、呼吸困難により死に至ります。致死率が非常に高いため、非常に危険です。ただし、抗毒血清による治療を早期に開始することによって致死率が約30%から約4%に低下させることができるそうです。  魚肉発酵食品(いずし)や、酸素のない状態にある缶詰、瓶詰め、真空パック製品(辛子レンコンの例があります)、レトルト類似食品、ハム、ソーセージなどからの発症が確認されています。
 新鮮な食材を用いて洗浄を十分に行い、低温保存と調理の際は十分に過熱することを徹底することが必要です。
 発生件数は少ないですが、一度、発生すると重篤になるため注意が必要です。国内では、いずしによる発生が多いので注意が必要です。また、容器が膨張している缶詰や真空パック食品は食べない方が良いでしょう。

乳児ボツリヌス症:
 乳児ボツリヌス症は、1歳未満の乳児にみられるボツリヌス症です。乳児がボツリヌス菌の芽胞を摂取すると腸管内で菌が増殖し、産生された毒素が吸収されてボツリヌス菌による症状を起こすことがあります。
 症状は、便秘状態が数日間続き、全身の筋力が低下する脱力状態になり、哺乳力の低下、泣き声が小さくなる等、筋肉が弛緩することによる麻痺症状が現れます。
 1歳未満の乳児に蜂蜜を与えると発症するため、乳児に蜂蜜は絶対に与えてはいけません。蜂蜜以外に原因食品が確認された事例はほとんどないそうですが、東京都で発生した事例で、自家製野菜スープが感染源と推定されたものがあったそうです。

2. ウイルスによる感染症
 ウイルス性食中毒は、ウイルスが蓄積している食品の摂取や、人の手を介して感染が起こります。日本では、その原因のほとんどがノロウイルスです。

・ノロウイルス
 ノロウイルスは牡蠣、アサリ、ハマグリ、ホタテなどの二枚貝の中腸線(内臓部分)に蓄積されています。本来、二枚貝はノロウイルスを持っておらず、二枚貝の内部で増殖することもありません。ヒトの小腸粘膜で増殖するウイルスです。
 二枚貝がノロウイルスに汚染されるのは、ヒトが水環境をノロウイルスで汚染することが原因とされています。すなわちノロウイルス感染者から糞便とともに排出されたノロウイルスは便器を通り、下水、下水処理場へ行き、そこで大部分は除去され、極一部が排水とともに河川水に流出し、河川から沿岸部、海に流れ込み、そこに生息している二枚貝の内臓にノロウイルスが蓄積されます。
 二枚貝はプランクトンを食餌としているため、大量の海水を体内に取り込んでいます。例えば、カキの活動が活発な時には1時間に10リットル以上の海水を取り込こんでいます。カキなどの二枚貝は大量の海水と一緒にプランクトンを体内に取り込み、ろ過しています。この時、海水中のウイルスも同時に取り込まれ、内臓、特に中腸腺と呼ばれる黒褐色部分でウイルスの濃縮、蓄積が行われます。
 内臓に蓄積されたノロウイルスは二枚貝の身および表面を洗っても除去できません。ノロウイルスに汚染された二枚貝を生、あるいは加熱不足で食べると食中毒を発症します。
 また、カキなどを殻から出す時、あるいは洗う時に手指や、まな板などの調理器具を汚染することがあります。調理者の手から他の調理器具や他の食材に汚染が広がることや、ノロウイルスに汚染された調理器具から他の食材が汚染され、ノロウイルスを体内に摂取し、発症することが報告されています。
 さらに家族が発症した際、患者の手、つば、糞便や嘔吐物を処理する時に手指や埃などに付着し、それが口から入るという感染者からの二次感染も報告されています。非常に感染力が強いので集団感染しやすいという特徴があります。
 熱に弱いので、ウイルスの付着が疑われる食材は85℃以上で1分間以上加熱すれば安全です。一方、物理化学的抵抗性は強く、70%アルコールおよび、塩素イオン3〜6ppmでは短時間で不活されません。短時間での不活化には塩素イオン200ppm以上の濃度が必要です。酸、アルカリにも強く、酸(pH3)以上、アルカリ(pH10)以下の溶液でも短時間で不活化されません。逆性石けんや消毒用エタノールは効きませんので、手洗いをしっかりと行うことによって機械的に洗い流すことが感染予防には重要です。
 生のカキなど二枚貝を扱った包丁やまな板、食器などを、そのまま生野菜など生食するものに用いず、調理器具をよく洗浄、煮沸など消毒することも必要です。
 発祥するまでの期間は24〜48時間程度です。
 主な症状は、吐き気、おう吐、腹痛、激しい下痢、発熱などです。38℃以上の高熱や頭痛など、インフルエンザに似た症状が現れる人もいます。健康な大人は軽症で回復することが多いですが、子供やお高齢者は重症化したり、吐しゃ物を気道に詰まらせて死亡することがあるそうです。
 通常は、発症後3日程度で回復するそうですが、ウイルスの排出は2週間程度続きます。この期間に二次感染が起こるため、症状が回復しても同居者がいる場合は、気を付けなければいけません。
 ノロウイルスによる感染性胃腸炎や食中毒は一年を通して発生していますが、カキを食べる機会が増える10月〜4月の冬季にかけて集中発生します。ノロウイルスに対してはワクチンがなく、治療は輸液などの対症療法に限られます。
 ノロウイルスは直径30〜40nm前後という非常に小さいため、粉塵として飛散するとなかなか落下しません。咳やくしゃみなどから感染することもあるかもしれません。嘔吐物とともに排出されたウイルスが乾燥して塵となって空気中を漂い、他の食品などに付着して二次感染になる可能性もあります。ノロウイルスは乾燥に強く、長期間感染力を維持できるため、広範囲に拡散し、食品、食器、調理器具等に付着する可能性があります。
 患者が出た家庭では、おう吐物や、ふん便で汚れた衣類等を片付ける時はビニール手袋、マスクなどを用いる、おう吐物や、ふん便で汚れた衣類は他の衣類とは分けて洗う、おう吐物などを片付けた用具、雑巾類は、塩素系漂白剤でつけ置き洗いをする、おう吐物などで汚れた床は塩素系漂白剤を含ませた布で被い、しばらくそのまま放置して消毒する、物の片づけが終わったら、よく手を洗い、うがいをします。手洗いの後、使用するタオルは清潔なものを使用し、患者とは別にするなど、十分な対策をする必要があります。

3. 寄生虫による感染症
 自然界には様々な動物が生息し、それぞれ固有の寄生虫を持っています。それらの寄生虫がヒトの身体に取り込まれた時、本来の宿主と異なるため、体内を移行したり、強い異物反応を起こしたりします。これが寄生虫による食中毒です。微生物による食中毒と異なり、食品中で増えたり、患者間でうつったりすることはありません。

・アニサキス(Anisakis simplex、Anisakis pegreffii、Pseudoterranova decipiens、Anisakis physeteris等)
 アニサキスは、クジラや海獣類が本来の宿主です。かつては寒流域の魚類に寄生していることが多かったのですが、気候温暖化の影響でカツオ等を原因とする健康被害も増えています。サバ、サケ、アジ、イカ、イワシ、サンマ、タラ、カツオなどに取り込まれた虫卵は幼虫となって、魚の内臓漿膜面で静止しています。アニサキス幼虫は寄生している魚介類が死亡し、時間が経過すると内臓から筋肉に移動することが知られています。
 アニサキス幼虫は体長2〜3cm、幅は0.5〜1mmくらいで、白色の少し太い糸状の線虫です。内臓漿膜面では、とぐろを巻いている状態を目で見ることができますが、筋肉に移動すると見つけるのは容易ではありません。
 アニサキス幼虫が寄生している生鮮魚介類を生、あるいは不十分な冷凍、または不十分な加熱状態で食べることで、アニサキス幼虫を体内に取り込み、幼虫が胃壁や腸壁に刺入して食中毒(アニサキス症)を引き起こします。
 アニサキスが寄生した生魚を食べてから、通常は2〜8時間後に発症します(胃アニサキス症)。まれに10時間以上、経過してから発症します(腸アニサキス症)。
 胃アニサキス症では、虫体が胃壁穿孔によって、みぞおちの激しい腹痛、吐き気、嘔吐を起こします。
 腸アニサキス症は激しい下腹部痛、腹膜炎症状を起こします。
 このほか、アニサキス幼虫が胃壁等に刺入しない場合でも、アニサキスが抗原となり、蕁麻疹やアナフィラキシーなどのアレルギー症状を示す場合があります。
 アニサキスの幼虫は60℃では1分以上、70℃以上では瞬時に死滅します。また、低温には強いとされていますが、冷凍処理によりアニサキス幼虫は感染性を失うので、魚をー20℃以下で24時間以上、冷凍保存することが感染予防に有効です。
 一方、酸には抵抗があるため、シメサバのように食酢で処理しても、アニサキス幼虫は死なずに感染します。また、一般的な料理で使う程度の量や濃度の塩、わさび等でも幼虫は死滅しません。
 魚を丸で購入する時は、鮮度の良いものを購入し、できる限り早く内臓を取り除きます。さらに料理する時によく見てアニサキスの幼虫を取り除きます(ただし全て取り除くことは困難です)。内臓を生で食べることは、絶対にやめましょう。

4. 有毒な植物や魚介類、キノコ類の摂取
 有毒な植物や魚介類による食中毒は自然毒と分類され、植物性自然毒と動物性自然毒に大別されています。
 植物性自然毒では、毒キノコやジャガイモの毒素ソラニンなどが有名です。一方、動物性自然毒ではフグの毒素テトロドトキシン(tetrodotoxin)や貝毒(麻痺性貝毒、下痢性貝毒、巻貝中毒)などが有名です。

5. 殺虫剤など毒性のある化学物質(薬品)や鉛など重金属の摂取
 食品あるいは食品原料に本来含まれていない有害化学物質を摂取することによって発生する食中毒を化学性食中毒と呼んでいます。重金属やカビ毒による汚染、有害食品添加物の混入、変敗に伴う油脂酸化物の生成、ヒスタミン生成菌によるヒスタミンの蓄積などが主な原因です。細菌性食中毒に比べて発生率は少ないですが、発生すると大規模な事件に至ることが多いです。2001年から2010年までの10年間に日本で発生した化学性食中毒は128件ですが、そのうち97件がヒスタミンによる食中毒です。

・ヒスタミンによる食中毒
 ヒスタミン食中毒は、ヒスタミンが高濃度に蓄積された食品、特に魚類および、その加工品を食べることによって発症するアレルギー様の食中毒です。
 ヒスタミンは、食品中に含まれるヒスチジン(タンパク質を構成する20種類のアミノ酸の一種)にヒスタミン産生菌(Morganella morganiiなど)の酵素が作用し、ヒスタミンに変換されることによって生成します。そのため、ヒスチジンが多く含まれる食品を常温に放置する等の不適切な管理をすることで食品中のヒスタミン産生菌が増殖し、ヒスタミンが生成されます。
 ヒスタミンは熱に安定であり、調理時の加熱等では分解されません。調理加工工程で除去できないため、一度生成されると食中毒を防ぐことはできません。
 ヒスチジンを多く含むマグロ、カジキ、カツオ、サバ、イワシ、サンマ、ブリ、アジなどの赤身魚及びその加工品が主な原因食品として報告されています。
 ヒスタミンによる食中毒を防止するために、下記の衛生管理を徹底する必要があります。
 ・魚を生のまま保存する場合は、すみやかに冷蔵、冷凍する
 ・解凍や加工においては、魚の低温管理を徹底する
 ・鮮度が低下した魚は使用しない
 ・信頼できる業者から原材料を仕入れるなど、適切な温度管理がされている原料を使用する

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