悪性高熱症

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更新日:
 2008年12月28日






◎悪性高熱症(1997年10月10日)
 悪性高熱症(malignant hyperthermia)は1960年、オーストラリアの内科医デンボロウーにより初めて学術雑誌に発表されました。悪性高熱症は麻酔に関係した病気であり、麻酔科医のみならず多くの医師にも知られる様になってきました。死亡率は飛躍的に低下しました。わが国では1960年代での死亡率は約80%でしたが、1980年以降では10%台にまで低下してきました。とは言え、やはり非常に怖い病気で、“麻酔科医の悪夢”とも言われています。
 揮発性吸入麻酔薬、スキサメトニウム(サクシニールコリン)などの筋弛緩薬などを用いた通常の全身麻酔を受けますと、悪性高熱症の素因のある患者さんでは悪性高熱症を発症します。時には何も起こらないで、無事手術を終える事もあります。理由は不明です。
 特徴的な症状は筋肉の硬直です。さらに、原因不明の頻脈、不整脈が出現し、血圧が不安定となります。呼気の二酸化炭素ガス圧が上昇し始めます。60分くらい経つと急激な体温上昇が始まります。多くの場合、体温は40℃以上になります。その後、尿は赤褐色(コーラ様の色調)となり、いわゆるショック状態になってしまいます。同じような症状を示す病態との鑑別が重要です。モニターの変化として初期には呼気二酸化炭素ガス濃度が異常に上昇します。また、骨格筋の崩壊により血清値が高くなり、心停止に陥ることがあります。
 体温の上昇率が15分当たり0.5℃以上、あるいは体温が40℃を示し、上に示した種々の症状を呈するものを悪性高熱症と定義しています。
 治療は誘因薬物の投与中止、ダントロレンの静注、全身冷却に代表される対症療法が重要です。さらに、ダントロレンという特効薬の発見により一層治療成績も向上してきました。

・原因
 素因のある患者さんでは骨格筋の中に存在するカルシウムの貯蔵庫、筋小胞体、からのカルシウム放出速度が異常に亢進しているという説が有力です。

・発症機序
 特に誘発(トリガー)する薬物を投与すると、骨格筋内のカルシウムの濃度は異常に高くなってしまいます。骨格筋内のカルシウム濃度が高くなると、筋小胞体からのカルシウム放出が一層激しくなります。骨格筋内のカルシウム濃度が高くなると代謝が亢進し、骨格筋の温度が高くなってしまいます。温度が高くなることで、筋小胞体からのカルシウム放出が一層激しくなります。このようにして、一連の生体内反応によって状態は益々悪くなってしまいます。

 安全な麻酔薬、注意深い周術期(手術前、中、後)管理、十分なモニターによって、素因のある方は安全に麻酔を受けることが出来ます。悪性高熱症の研究は世界的に行なわれており、日々の進歩は学会、学術雑誌に発表されています。なお悪性高熱症の専門家は2〜3年に一回世界的な研究会を開き、研究の成果と情報交換をしています。現在は遺伝学者も参加し、遺伝学的解析の成果と問題点を発表しています。
 一方、予後の悪いこの悪性高熱症の素因を持っている方々の会が北米、イギリスなどで結成され、わが国では悪性高熱症友の会がようやく1995年に設立されました。悪性高熱症についてより理解し、共通の問題点について話し合い、共に助け合うことなどをこの会の目的としています。



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