原子力施設での事故が起きた時の対処方法

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更新日:
 2008年6月28日







1. 事故発生直後の対応
 原子力施設で事故が起きたときは、まず、その事故がどのような性質のものかを把握する必要があります。次の3点を確認します。
@外部への影響があるか。
A「放射線漏れ」か、「放射能漏れ」か。
Bその状態は、もう終わったのか、まだ続いているのか。

 これらを順に確認していきます。

@外部への影響があるか。
 外部への影響がなければ、あわてる必要はありません。外部への影響がある場合、続いて、Aを確認します。

A「放射線漏れ」か、「放射能漏れ」か。
・放射線漏れ
 事故現場から距離がどれだけ離れているか確認する必要があります。当然、近いほど危険です。

・放射能漏れ
 事態は、より最悪です。放射能汚染が広がる可能性があります。2項を参照してください。

Bその状態は、もう終わったのか、まだ続いているのか。
 続いている場合、その影響が拡大することが予測されます。今後の情報に注意が必要です。

2. 放射能漏れの場合の対応(その1)
 放出された放射性物質は、拡散しながら濃度を薄めていきます。一般に、距離の二乗にほぼ反比例して影響が薄くなっていきます。
 現場から500m風下の地点における人体への影響(線量当量)を1とすると、10km離れた地点での影響は0.1程度になります。このため、原子力安全委員会の防災指針では、10kmを防災指定地域の目安に設定しています。
 ただし、事故の規模や天候によって、その影響する範囲は異なります。チェルノブイリの原発事故では、半径30kmの住民が避難しましたが、それ以外の地域でも放射能汚染が進みました。また、放射性物質の一部は、8000km離れた日本まで達しました。
 すなわち、半径10km以内の地域は厳重注意、半径20km以内の地域は要注意、という程度の認識で情報収集をする必要があります。

3. 放射能漏れの場合の対応(その2)
 放射性物質が漏れた場合、次の天候についても注意する。
@風の向きと風速
A雨、または雨の予報
 風が弱い場合は、近距離に放射性物質が滞留するため、風下を避け、遠くに移動する必要があります。強風の場合は、より広い範囲に影響が及ぶため、風向きを確認しながら行動しなければなりません。風向きは、一時的に変わることもあるし、より上空で強風が吹いている場合もあるため、これらについても十分、注意しなくてはなりません。
 放出された放射性物質は、雨が降ると雨粒に吸収され、地上に降り注ぎます。これが、「黒い雨」と呼ばれるものです。これを直接、浴びることも非常に危険ですが、その影響はそれだけではありません。この黒い雨によって、地面や河川、動植物など、あらゆるものが、より急激に汚染されていくのです。

4. 屋外で事故を聞いた場合の対応
 事故の規模や、現場からの距離にもよりますが、とりあえず、以下の要領で退避してください。
@まず、ハンカチなどで口をふさぐ。
A付近の建物の中に飛び込む。
Bなるべく建物の奥まで入り、窓を閉め、エアコンや換気扇を切る。
 ハンカチで口をふさぐのは、放射性物質を吸い込むことを防ぐためです。このため、建物に飛び込む際も、走らない方が良いでしょう。飛び込む建物は、木造よりも鉄筋コンクリートのビルの方が良いでしょう。

5. 車の中で事故を聞いた場合の対応
@窓を閉め、エアコンを切り、外気が中に入らないようにする。
Aラジオを消さず、事故情報と交通情報に注意する。
B車で逃げる。または車を置いて逃げる。

6. 事故の規模の判断
 国際原子力機関(IAEA)が定めた国際評価尺度(INES)によると、「レベル0マイナス」から、「レベル7」の9段階で事故の規模を表します。
 日本では、研究施設の場合は科学技術庁が、商用施設の場合は経済産業省が判断し、発表することになっています。この時の判断基準は、以下の二点です。
 @「レベル4」以上なら、退避。(レベル4〜7)
 A「レベル3」以下なら、問題ない。(レベル0〜3)
 ただし、事故が起こってから、この判断が発表されるまでにはタイムラグがあります。JCOの事故の場合には、約24時間かかっています。(日本の行政は、判断が遅いのでしょうか?)

7. 事故の影響の判断
 退避を開始するか否かの判断基準となるものの1つに「線量当量(単位はシーベルト(Sv))」があります。これは、人間の身体が放射線を浴びた時、どの程度の影響が出るかを数字で表したものです。原子力安全委員会の防災指針では、以下のように述べられています。
・全身への予測線量当量が10mSv以上の時、乳幼児、子供、妊婦は屋内に退避する。
・予測線量当量は、災害対策本部が算出し、周辺の住民に告知する。
 一般に6Svの放射線を浴びると、人間はほとんど死ぬと言われています。ちなみに、広島、長崎に投下された原爆によって爆心地近くで被爆した人は、8Sv程度の放射線を浴びたと言われています。
 退避のポイントは、以下の通りです。
@全身への予測線量当量が10mSv以上なら、建物の中に退避する。
A全身への予測線量当量が50mSv以上なら、遠隔地に避難する。
B放射性物質の放出が長時間続くようであれば、遠隔地に避難する。

8. 避難する際の服装
 「被爆」には「外部被爆」と「内部被爆」があります。「外部被爆」とは、放射線を身体の表面が受けることで、「内部被爆」とは、呼吸や食事によって放射性物質を体内に取り込んでしまうことです。
 「外部被爆」を防ぐポイントは以下の3点です。
@できるかぎり皮膚が外気に直接、触れないようにする。
A雨に備えて、水滴が皮膚に触れないようにする。
B防護服がなくても、家庭にある代用品で少しでもカバーする。

 とにかく、適切な情報収集と、逃げる、ことが最重要です。

参考文献
 桜井淳:“原子力事故自衛マニュアル”、青春出版社(1999)


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