雨が降ると匂いがする理由

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更新日:
 2020年5月3日



◎雨が降ると匂いがする理由(2020年4月26日)
 雨が降り始めると特有の匂いがすると思いますが、これには科学的根拠があるそうです。1960年代、この研究をしたグループがありました。1964年、オーストラリア連邦科学産業研究機構の鉱物学者Isabel Joy BearとR. G. Thomasが科学雑誌、Natureに論文を投稿しました。その中で、「長い間、日照りが続いた後の最初の雨に伴う独特の香り」のことを「ペトリコール(Petrichor)」と名付けました。また、この香りが発生する原因として、「特定の植物から生じた油が、地面が乾燥している時に粘土質の土壌や岩石の表面に吸着し、雨によって土壌や岩石から放出されることによって独特の匂いが発生する」と述べています。
 さらにBearとThomasは1965年に、この油が種子の発芽と初期の生育を遅らせる、ということを発表しました。これは植物が成長するのに厳しい環境において種子の発芽を防ぐために発散させると考えられたためです。
 この他にも、土壌細菌が作り出す「ゲオスミン(geosmin)」という有機化合物も、雨が降った後の地面の匂いを持つ物質として知られるようになっています。ゲオスミンは1965年に放線菌の代謝産物として単離されました。藍藻や放線菌、特にストレプトマイセス属などの微生物によって産生され、それらが死んだときに放出されることが分かっています。ゲオスミンは雨によって土中から大気中に拡散し、独特の雨上がりの匂いの素になります。ヒトの鼻はゲオスミンに対して敏感で、5ppt程度の濃度でも、その匂いを感じることができるそうです。ちなみに「ppt」とは「parts-per-trillion」の意味で10の-12乗、一兆分の1という割合を表しています。
 原因物質が分かったとして、何故、雨が降った時に、これらの成分が大気中に放出され、匂いを発するのかは解明されていませんでした。2015年、マサチューセッツ工科大学の研究チームは、「ペトリコールの発生メカニズムが説明できるかもしれない」として研究結果を発表しました。ハイスピードカメラを用いてで落下する雨粒を観察した結果、砂などに衝突した時、エアロゾル(気体中に浮遊する微小な液体や固体の粒子)が発生することを明らかにしました。すなわち、雨が降った時、雨粒が土壌内の物質を大気中に広める働きをしていることが考えられるのです。
 また、エアロゾルに取り込まれる成分は雨粒の落ちた場所の土や植物の状態によって変わり、匂いもそれにともなって変化します。さらに雨の降り方、雨の落ちる場所によっても発生のしやすさが変わります。発生しやすいのは、小〜中程度の雨の降り始め、砂や粘土質の土に落ちた時だそうです。
 すなわち、エアロゾルが多く現れるのは「軽く中程度の雨」の時で、大雨の時はあまり発生しないということです。個人的には、雨粒によって匂い物質が大気中に放出されても、雨の量が多ければ、大気中に広がる前に流されてしまうため、大雨では匂いを感じないのではないかと思います。
 なお、エアロゾルは風によって運ばれるので、今いる場所で雨が降っていなくても、近くで雨が降り始めた時にも匂いを感じる可能性があるようです。



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