ルビーのお話
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2008年5月10日




◎ルビー(Ruby)
 7月の誕生石にされています。和名は紅玉です。結晶系は六方晶系で、化学式はAl2O3、硬度は9です。比重は3.95〜4.05で、通常は4.00くらいです。屈折率は1.762〜1.770で、複屈折率は0.008です。玻璃(ハリ)光沢があります。
 コランダム(酸化アルミニウムから成る鉱物)の一種で、深紅色のものをルビーと言います。酸化アルミニウム中に不純物として1%程度の微量の酸化クロムが含まれたものです。この不純物の量が非常に重要で、0.1%だとピンクになり、ルビーではなく、ピンクサファイアと鑑別されます。また、5%以上になると灰色になり、エメリーと呼ばれる灰色の工業用の研磨用途の鉱物になり、宝石ではなくなってしまいます。
 しかし、ルビーが希少な宝石である理由は、それだけではありません。コランダムに適度なクロムが含まれるという事自体が、稀にしか起きないことなのです。一般に、クロムは珪酸分の少ない塩基性、または超塩基性と呼ばれる火成岩に含まれていますが、コランダムは、通常は珪酸分の多い酸性岩質の、しかも珪酸分が多過ぎては他の鉱物になってしまうという微妙な条件の下で生成します。すなわち、普通なら、コランダムにクロムが含まれるということはあり得ないのです。しかし、実際にはルビーが存在するのですから、通常ではない、何か特別なことが起こったということになります。まさに、ルビーがルビーであることが奇跡なのです。
 赤色が薄くなると、ルビーとは呼ばずに、ピンクサファイアと呼ばれます。黄色はゴールデンサファイア、やや赤いオレンジ色ならパパラチアと呼ばれます。
 また、不純物として酸化チタンと少量の酸化鉄を含むと青色になり、サファイアと呼ばれます。酸化アルミニウムのみの無色のものはホワイトサファイアと呼ばれます。
 赤いルビーと青色のサファイアは、同じ酸化アルミニウムの結晶のコランダム(鋼玉石)です。その硬度は9で、ダイヤモンドに次ぐ硬さです。ルビーの赤は、不純物として鉱物の中に含まれている、数パーセントの酸化クロムによるものです。酸化クロムは地層深くに存在しますが、稀に地表近くに上がってきて酸化アルミニウムと結合して、赤いコランダムを生成します。そのため、サファイアより希少性が高いのです。
 ルビーは、「赤」を意味するラテン語の「ルベル」からきています。ミャンマーのマンダレー地方産が有名です。ルビーは、どんな色の光を吸収しても赤い光として放出するという性質があるため、レーザー光線を作るのに利用されています。
 古代のインド人はこのルビーの色を、石の内部で燃える不滅の炎によるものと考え、この石を水の中へ入れると内部の熱で水は沸騰すると信じていたようです。また、旧約聖書には、神が天地万物を創造したときにつくった十二の宝石のうち、ルビーに高い位を与えたと記されており、ルビーを持てば病気から身を守り、戦いで倒れることのない力が与えられると信じられてきました。
 東洋産のルビーは、ヨーロッパに渡来して、その鳩の血の色の鮮やかさから不老長寿、護身の効果があると信じられてきたそうです。しかし「ルビー」は、単に赤い色の石を指していたため、歴史上、ルビーとされてきた石が、実際にはガーネット、スピネルやトルマリンだったという例が多くあります。
 例えば、「黒太子のルビー」と呼ばれる317カラットのルビーは、14世紀半ば、スペイン王ペドロが英国の黒太子(エドワード皇太子)に戦いの勝利の謝礼として贈ったものです。その後、へンリー5世がアザンクールの戦いに王冠の中央につけて出陣し、危いところをルビーの一瞬の輝きで助けられ、勝利をおさめたと伝えられ、それ以来、英国王の王冠に取り付けられて、幾度もの戦争をくぐり抜けてきました。現在も、ロンドン塔に収められている王冠に輝いていますが、この「黒太子のルビー」はスピネルだったそうです。
 また、1398年にタタールの征服者ティムールが、デリー占領の際に入手した353.50カラットの「ティムール・ルビー」は、所有者を示す6名の銘が刻み込まれた、世界最大のルビーとして有名になりました。その銘によると1628〜1658年の間は、シャー・ジャハーンの所有で、1739年にはナーディル・シャーがインドへ侵入し、入手したようです。その後、1849年、東インド会社が英国へ持ち帰り、英王室へ収めたのですが、これもスピネルであったそうです。
 ルビーの赤には、紫色を帯びた淡い赤からガーネットのような暗赤色まで、様々な色調がありますが、最も美しいルビーは、透明度の高い鮮明な真紅色とされています。一般に、ピジョンブラッド(鳩の血)と呼ばれて、最高の価格がつけられています。ルビーは産出量が少ないうえ、大粒の結晶は極めて少なく、5カラット以上のものは、まず産出されません。1カラットを超えるルビーは、ダイヤモンドやエメラルドよりも希少性があり、はるかに高い価格で取引きされています。
 ルビーの主産地は、ミャンマーとスリランカが有名です。その中でもミャンマーの北部、モゴック周辺が古くから有名です。このほかにも、インドのマイソール地方、アフガニスタン、チべット、ボルネオ、タイ、オーストラリア、ブラジルなどでも産出しています。
 ミャンマーのルビーの年間産出量は、約4万カラットと極めて少なく、タイ、カンボジア国境がその10倍程度、アフリカで約2万カラットと、世界中合わせても50万カラット程しかありません。年間産出量としては、ダイヤモンドの1、500万カラット、サファイアの2、000万カラット、エメラルドの300万カラットと比べると、これだけ有名で人気のある宝石としては桁違いの少なさです。しかも、最高級産地のミャンマーは、常に紛争の危機にさらされているため供給が不安定です。このため、最高級のルビーは非常に高価になってしまっています。しかし、マダガスカルでの新たな産出が期待されています。それでは、各産地の状況をまとめます。

◎ミャンマー
 ミャンマー政府が鉱山を国営化したため産出が激減しています。また、政局が不安定なため、非常に入手しにくいのが現状で、かなり高価なものになっています。
 ミャンマーの中で最も評価が高いのは、モゴック鉱山から産出されるモゴック産です。ピジョンブラッドと呼ばれるルビーは、このモゴック地区から採れています。その中でも加熱処理をしていないものは、驚くほどの高値で取引されています。
 1990年代に、モゴック地区の東南にマンシューという新しい鉱山が発見され、モゴック産と同程度の高品質のものも産出されています。また、最近、中国寄りに新しい鉱山も発見されました。色味は、若干オレンジ味の石が多いですが、非常にクラリティの高い石が産出されており、今後の進展が期待されます。
 古いミャンマーの伝説によると、ルビーが産出する谷に肉片を投げ込み、その肉片を禿鷹に取らせて、肉に付着したルビーを集めたそうです。この地区の捨て石の中からは石器、青銅器時代の道具が発見されており、当時からルビーの採掘が行われていたと考えられています。

◎タイ
 タイは、生産量では世界の大半を占めています。タイ産ルビーは、ミャンマー産と比べると多少紫がかかって見えます。これは、鉄分が多いためです。いわば、サファイアの青の発色が混じって紫になるためです。また、大半は色味が濃すぎて透明度の低い、濁った(いわゆる、黒味がかった)ルビーが多く産出されます。それなりに美しいのですが、その黒みがかった血の色は、ビーフブラッドと呼ばれています。市場では、ミャンマーのピジョンブラッドが高く評価されており、カラット当たりの単価はミャンマー産の半分程度です。
 タイ産ルビーは、1850年の鉱床発見以来、19世紀後半から世界の重要な供給地となっています。品質ではミャンマーに劣りますが、1963年にミャンマーが社会主義化され、国営化された鉱山からの産出が激減したため、タイが最も重要なルビーの産地の1つとなっています。

◎スリランカ
 チェリーピンクと形容されるくらいピンクがかった淡い赤色をしているため、ルビーとしての評価は低いようです。中には、紫がかったものもあり、鑑別でピンクサファイアや、バイオレットサファイアとされることもあるようです。
 スリランカ産は、島南部のラトナプーラ(宝石の街の意)附近で、現在でもきわめて原始的な方法で掘り出されています。ミャンマー産よりも明るく透明度がありますが、セイロン・ルビーと呼ばれる真紅色もあります。また、スター・ルビーも産出しています。

◎ベトナム
 1983年に、はじめてルビー発見の報告がありました。1987年に、その場所から28km西の地区で、豊穣なルビー鉱床が発見されました。その後、ベトナム全土での大規模な調査が行われ、ほぼ全土に広大なルビーやサファイアの鉱床があることが発見されました。
 北部のルビー鉱床は、いずれもミャンマーやパキスタンと同じ、結晶大理石の層を花崗岩ペグマタイトが貫いた地層で、ルビーやサファイアの他にも多様な宝石が発見されています。採取されたルビーの原石のほとんどは置物彫刻用で、2、3割がカボションカットにする低級クラスです。カット宝石として利用できるのは1割にも満たないようです。カットされる石の大半は1ct前後と小さいものです。しかし、大半の石はクロムの含有率が低く、ルビーというより、ピンクサファイアに分類されています。

◎マダガスカル
 2000年末のマダガスカル宝石ラッシュで、初めてルビーの採掘がはじまりました。現在のところ、タイ産のような黒味のある石も出ていますが、透明度の高いテリのある最高級品の色合いの産出もあり、今後、最も期待できる産地と言われていました。しかし、2002年にパパラチアサファイアの加熱処理問題が発生してからは、マダガスカルで採掘されたコランダム自体の信用が低下し、品質のわりに需要は低下しています。



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