高張力鋼板の話
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更新日:
 2006年8月31日






◎高張力鋼板、ハイテン(2006年8月31日)
 高張力鋼板は「ハイテン(High Tensile Strength Steel Sheets)」とも呼ばれる引っ張り強さが高い鋼板のことです。普通鋼板の引張り強さが270MPa以上であるのに対して、340MPa~790MPaのものが一般的に高張力鋼板と定義されています。ただし、この定義は各社、各国によって違っているので注意が必要です。490MPa以上を高張力鋼とする見方もあり、ドイツでは180MPa以上を高張力鋼と呼ぶこともあります。また、引張り強さ980MPa以上のものは通常「超高張力鋼板」と呼ばれています。
 高張力鋼板の種類としては、炭素の他にニッケル(Ni)やシリコン(Si)、マンガン(Mn)などの元素を添加して強化した固溶強化型や析出強化型鋼板、プレス成形後に焼入れして強化した複合組織鋼板などがある。また、プレス成形する前に材料を加熱して成形後急冷して強度を高める熱間プレス成形法が開発され、採用が広がっています。

・成形技術の進歩で自動車分野に採用拡大
 高張力鋼板の主要用途は自動車分野です。自動車業界では近年、地球温暖化問題への対策が求められており、特に燃費向上に伴う二酸化炭素排出量削減が急務です。その最も有効な手段が軽量化であり、薄くしても普通鋼板と同じ強度を得ることが可能な高張力鋼板を採用する機運が高まってきています。
 高張力鋼板の強度を上げると成形性が下がってしまうことが課題でしたが、近年、成形技術が進歩してきており、採用を促している。外板パネルでは340MPa級、メンバーやピラーなどの構造部材では440~590MPa級の高張力鋼板の採用が進んできています。バンパーや側突対応の補強材には980MPa以上の超高張力鋼板も使われ始めています。

・JFEスチール、自動車向けに1,180MPa級超高張力鋼板を開発(2006年8月31日)
 JFEスチールは自動車構造骨格部品向けにプレス成形性に優れた1,180MPa級の超高張力鋼板「高加工性WQハイテン」シリーズを開発した。同シリーズの延性は従来の1,180MPa級高張力鋼板の1.5倍以上、一般の980MPa級高張力鋼板並み、穴拡げ性は一般の980MPa級高張力鋼板並み。これにより開発済みの780MPa級、980MPa級に次いで、同シリーズには新たなラインナップが追加されたことになる。
 さらに同社はスズキが2006年1月に発売した「MRワゴン」の構造部に「780MPa級GAハイテン」が初めて採用されたことを明らかにした。スズキと共同で開発したこの高張力鋼板は、従来比2倍以上の優れたプレス成形性を実現したもの。具体的には、延性と穴拡げ性のバランスに配慮しながら従来比2倍以上の高い穴拡げ性を持たせ、成形時のプレス割れの主原因となるせん断端面からの亀裂発生を最小限に抑えている。

・「ストリーム」、フロントバンパービームに780MPa級の高張力鋼板を採用
 ホンダは、2006年7月に発売した新型「ストリーム」に高張力鋼板の適用領域を拡大したことなどで剛性を高めつつも軽量化した。剛性はフロントの横曲げ剛性は従来比40%、リアのねじれ剛性は同4%、それぞれ高めたが、ホワイトボディ自体は従来よりも10kg軽量化した。 高張力鋼板は、主要骨格部位に440MPa級と590MPa級を用いており、衝突安全性を考慮してフロントバンパービームには780MPa級を採用した。社内試験でのJNCAP(自動車アセスメント)は、衝突安全性能が六つ星、歩行者頭部保護性能はレベル3相当になるという。

・新型「パサート」、熱間プレスの超高張力鋼板を16%使用
 フォルクスワーゲンは、2006年4月に発売した新型「パサート」のボディに高張力鋼板を多用していることを明らかにした。 高張力鋼板の使用比率は74%に上る(同社では180MPa以上の鋼 板を高張力鋼板に分類)。300~420MPa級以上の高張力鋼板を使用したのは、Aピラーの内側、サイドシル外側、シートブラケット、前後方向のリアメンバなど。
 特筆すべきは全体の16%に、熱間プレスして強度を1000MPa以上に高めた超高張力鋼板を使っていること。プレス成形する前に材料を加熱して、成形後急冷して強度を高める方法だが、通常のプレス成形に比べてサイクルタイムが長くなりコストがかさむ技術だ。採用部位は、フロントバンパーのクロスメンバ、前席足下のクロスメンバ、サイドシル内側、フロアトンネル、Aピラーおよびルーフフレーム、Bピラーである。

・JFEスチール、難成形部品への適用拡大する新プレス技術
 JFEスチールは、自動車用の高張力鋼板を成形しにくい形状の部品に適用するためのプレス加工技術「JIM-Form」を開発し、実用化に向けた研究開発を開始した。JIM-Formを使えば、これまで780MPa級の材料しかプレス加工できなかった難成形部品に980MPa級の材料を使える可能性があり、自動車の軽量化と衝突安全性の向上につながる。
 JIM-Formは、成形過程でのワークと金型間の摺動(しゅうどう)挙動を適正にすることで、過大なプレス荷重がかからないように成形時のストロークを制御しながら加工する。場合によっては瞬間的に荷重を抜いてしまうこともある。

・住友金属、自動車用大型・複雑形状部品の成形法を確立
 住友金属工業は、高張力鋼板を使った自動車用の大型・複雑形状部品の成形法を確立した。高圧液体によってワークを塑性変形させるハイドロフォーミングに関する技術。新開発の注水・シール技術と高精度な有限要素法(FEM)解析モデルを組み合わせることで実現したという。
 この成形法を用いて、自動車のサスペンション・メンバを試作したところ、プレス成形と比べて金型数と工程数の削減が確認できたという。プレス成形では6部品を別々に成形した後、アーク溶接によって一体化している。その際、ブランクの打ち抜き金型が6セット、プレス成形金型が18セット、計24 セットの金型が必要だった。鋼板ハイドロフォーミングでは、打ち抜き金型が1セット、ハイドロフォーム金型が1セットの計2セットで済んだ。この試作で使った高張力鋼板は、引っ張り強さが590MPa、板厚が1.6mmのものである。割れやしわ、スプリングバックはほとんどなく、成型品とFEM解析との比較も良好だったという。


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